第三章 勇者潜入する8-2
「――む、無理ですぅ!! 私がきちんと魔法を使えないのは、ワイズさんだって知ってますよねぇ~?」
「知ってる……知ってるが、ここはお前に任せたいんだ!」
アリサが拒否して来るのは想定済み。
だが、ここで折れる訳にはいかない。
「どうして私なんですかぁ? ワイズさんがやってくださいよッ!!」
「アリサの言う通りよ。あんたが言い出しっぺなんだから、あんたがやりさいよ!」
「「そうだ(です)、そうだ(です)ッ!」」
アリサの言いたい事は分かる。でも、俺にも事情があるのだ。
あと、エレナとそのおまけ達はどういう心境でモノを言ってるのか分からないが、とにかくアリサの説得を続ける事にする。
「……ああ、外野は黙ってろ!」
ぶーぶー文句をってくるアホ共を黙らせ、アリサに話し掛ける。
「……いいか、よく聞け。今の俺にあの巨大岩を破壊出来るだけの魔力は残っていない」
俺の発言に一同は驚愕の声を上げる。まあ、勿論これは嘘なんだが……。
「あの巨大岩を破壊出来るのは、アリサ……お前だけなんだ!」
「そ、そそそんな事、きゅきゅ急に言われましても……」
俺の言葉を聞いて、明らかに動揺している様子のアリサ。
みんなをわざと危険に巻き込むみたいで少々心は痛むが、絶体絶命のピンチにこそ、チャンスは隠れている。という言葉があるように、これはアリサを『サキュバス』と向き合わせる為のチャンスだと俺は考えている。
このピンチをチャンスに変える為にも、まずはアリサをやる気にさせなければいけない。
「……落ち着けアリサ。まず、お前の持つ魔法のセンスは確かなモノなんだから、それを信じろ!」
「そ、そう言われても……私、きちんと魔法を使えた試しがないですし~……」
「そんなの関係ない! 失敗した事は忘れて、今に集中するんだ!!」
「そんな無茶苦茶な……」
「無茶苦茶でもやるしかないんだ! ……お前がやらないと、俺達は死ぬんだぞッ!!」
「そ、それは…………」
アリサは葛藤していた。俺の言葉を重く受け止めながら……。
厳しいと思うかもしれないが、こうでもしないとアリサは覚悟を決めない。
俺は心を鬼にしてアリサと向き合う。
あと少し、彼女を後押し出来る言葉を伝える為に……。
「……アリサ。お前は自分の中に眠る、もう一人の自分という存在に気付いているか?」
「もう一人の……自分…………」
「そうだ……お前の中で確かに存在する魔族の人格、『サキュバス』の存在だ」
この事実をアリサは知っている。本人(魔族のアリサ)が言ってたのだから、まず間違いない。
「俺はその存在ときちんと話しをした。そして、お前が感じていた恐怖の正体を知った」
「それって……はっ! 止めてください! 聞きたくありません!!」
アリサは両手で耳を塞ぐ。そんな事をしても無駄だ……。
『聞け、アリサッ!』
「――ひぃッ!」
『お前は人間と魔族の架け橋でありたいと願う一方、自分の中にある魔族の存在に恐怖を感じている』
「……こ、これは『テレパシー』ッ? 止めてくださいッ!!」
急に小さな悲鳴を上げたアリサだが、直ぐにその正体に気付き反応する。さすがは魔法の天才、全てお見通しか……。
何も知らないカール達は、急に悲鳴を漏らしたアリサに驚き、エレナは全てを悟ったような表情浮かべていた。
『説明は不要のようだな。これがある限り、お前は俺の声から逃げる事は出来ない』
「卑怯ですね、ワイズさん……魔法が使えないなんて嘘じゃないですか」
俺にしか聞こえないくらいの小さな声で呟いたアリサ。しまった……つい、魔法を使ってしまった。
言われて気付くとは、俺も間抜けな奴だ……。
「でも、これだって私の為なんですよね……魔法がきちんと使えない私をどうにかしようとしてくれている……そうですよね?」
『……ああ、そうだ。嘘を付いてすまなかった。でも、これだけは伝えておきたかったんだ。お前には俺達が付いているって事を……』
「……………………」
アリサは何も応えない。
だが、俺はそのまま言葉を続ける。
『お前が今までどれだけの人間、魔族達に傷つけられて生きて来たかのか……それは今の俺には分からない。お前の楽しい事や嬉しい事、好きな食べ物や嫌いな食べ物、その他諸々全部含めて分からない事だらけだ……そんなお前の事を、もっと色々な面で知りたいんだ! こんなところで死んでしまうと、せっかく出来た友人との思い出がゼロのままで終わってしまう。そんなの俺は御免だッ! エレナだって俺と同じ気持ちの筈。だから、俺達を信じて欲しい……』
俺は精一杯、思いの丈を吐き出した。
「……本当に、そうでしょうか?」
アリサは俯きながらそう呟いた。
『もう一人のお前は言ってくれた……俺達の事を信じていると。お前は違うのか……?』
アリサの問いに答えた俺は、さらに問いかける。
「違いません! ……私だって、お二人の事は信じていますッ!」
アリサの本心から出る言葉を聞いた俺は、
「……じゃあ、俺達を信じたもう一人のお前を信じてやれよッ!!」
『テレパシー』ではなく、自分の声で叫んだ。
これが俺の出来る限界――全力の気持ちをぶつけた……。
「……そう、ですね。魔族の私が……人間を信じているというのに…………人間の私が……人間を心から信じていないなんて――本当に、私っで……バガでずねぇ……」
今まで抱え込んでいたモノが、涙になって溢れ出ている。それが、今のアリサを見た俺の感想だった。
涙を流し不安定になるアリサの体を支えながら、俺は走った。
「キングの間が見えて来たぞッ!!」
「ああ、ここまでですかぁ~ッ!!」
カールの言う通り、目の前に続く道の先には今までと違った大きな空間が広がっている。ここが正念場だろ……。
俺達がキングの間に入る直前に、
「アリサ……今のお前ならきっと出来る!」
「……はい……必ず、成功させてみせますッ!!」
アリサの強い意志を確認した俺は、
「よし、かましてやれぇッ!!」
「――な、何事だッ!? ……って、何だこれぇッ!!!!」
何か声が聞こえた気がするが、今は関係ない……。
キングの間に入った瞬間、アリサと俺は迫り来る巨大岩に向き直る。そして、
「これが生まれ変わった、私の全力ですぅ――行きますよッ、『グランド・フィナーレ』!!」
両手を巨大岩に向けて魔法を放つアリサ……何だ、その魔法……聞いた事ないぞッ!?
まったく知らない魔法名を叫んだアリサの両手から、とてつもない闇と光の魔力が溢れ出し、その銀河のような煌めきを放つ魔力が、津波のように巨大岩を飲み込んでいく。
「な、何だよこれ……」
「綺麗……」
巨大岩を飲み込んだ魔力の波は、そのまま小さく収縮していき巨大岩諸共、何もなかったかのように消え去っていった。
その光景を眺めていた俺は、ただただ言葉に詰まり、エレナは美しいモノと賛辞の声を上げていた。
「どうですかッ! これが私の生み出した、全てを呑み込み消し去る魔法『グランド・フィナーレ』の威力ですぅ!! いや~、この魔法を完成させるには……」
と、興奮した様子で身振り手振り説明してくるアリサ。
その魔法は、初めて魔法を成功させた奴が放って良い威力の魔法ではなかった……。




