第三章 勇者潜入する8-1
「なぜこうなった……」
「し、知らないわよッ!」
「ずびまぜぇぇぇん!!」
「やべェ―――ッ!! 死ぬぅぅぅぅッ!!!!」
「ヒィィィィィィィィッ!!!!」
俺とエレナとアリサとカールとケネスは迫り来る巨大な岩に追われていた。約二名、不純物が混ざっている気がするが、それどころではない。
「アリサ、どうしてお前がここに居るんだッ!!」
「あ、ワイズさん、酷いですよッ! 私を馬車に置き去りにするなんて!」
「ああ、それは悪かった……でも、お前の為を思っての決断だったんだ」
あと、俺の保身もあるが……それは良い。
「そんな事より、俺の質問に答えてくれ。馬車には『バリア』の魔法を張っていたから抜け出せなかった筈……どうやってここまで来た?」
「バリアって……ああ、あの透明の壁ですか……あれなら、私の魔法で木っ端微塵にしてやりましたよ!」
笑顔でVサインを送って来るアリサ。簡単に言ってくれる……。
大方、魔法を暴発させて破壊したんだろうが、ずいぶん無茶をしてくれる。俺の『バリア』を破壊する程の威力……例えば、あの勇者が放った光の衝撃波くらいか。やはり、素晴らしい魔法のセンスを感じるな……。
アリサの持つ潜在能力を高く評価している時である。
「バリアを木っ端微塵に破壊するって……馬車は大丈夫なんでしょうね?」
アリサの話しを聞いていたエレナが、突然話しに割って入って来た。
「――ギクッ!! そ、それはですね……ええーっと、てへっ!」
エレナの問いに対して、あざとい仕草で誤魔化そうとするアリサ。
「何よその反応……? あんた、まさか……」
「本当にすみませんッ!! この件が終わりましたら、必ず弁償しますので!」
アリサは精一杯の誠意を見せて謝った。その姿を見たエレナも強く出る事が出来ないのか、溜息を吐きながら、この話しを忘れる様に巨大岩から逃げる事に集中する。
魔法を暴発させた訳だし、聞くまでもなく馬車は大破しているだろう。現に魔法を発動させた張本人の衣服は、あちこち破れていたり、穴が開いていたり酷い有様だった。
「……あ、馬さんは無事ですよ。私の魔法って、なぜか生物にはほとんどダメージが効かない仕様になってるみたいなんです」
どんな魔法だよ! と、ツッコみ要素の強いボケをかましてくる来るアリサ。
だが、そんな魔法もアリサならあり得ると思えてしまう。根拠何て何処にもないがな……。
「馬車の件はもういい。それで、お前はどうやってここまで来たんだ?」
この罠だらけの洞窟で、どうやってここまで辿り着いたのか……非常に興味深い。
「それなんですけど、聞いてくださいよ! この真っ暗な洞窟を、私一人で進むにはとても勇気が入りました。ですが仲間の為と、松明の明かりを手に取りいざ出陣! と、入ってみれば特に何もなく、どんどん進んで行った先で、このゴブリンさん達と出会いました」
俺達と一緒に巨大岩から逃げるゴブリン達を指をさすアリサ。
一つも罠に引っ掛かる事なくここまで来たというのか……。
アリサの強運に、ただただ愕然とする俺。
そんなアリサに指をさされたカール達は、やっと出番かと言わんばかりに口を開き出した。
「聞いてくれ。この嬢ちゃん、頭がおかしいぜぇ!」
「ええ、正気の沙汰とは思えません!」
カール達の取り乱しようが普通ではなかった。
気になった俺は、カール達にその訳を聞いて見る事にした。
「……何があったんだ?」
俺の問いに答える為、カールが語り始める。
「この嬢ちゃんの言う通り、確かに俺達は出会った。俺とケネスは直ぐに臨戦態勢を取ったんだが、ここの嬢ちゃんは俺達を見るなり、急に詠唱を始め出したんだ」
相手が臨戦態勢を取っていたのなら、詠唱を始めるのは当たり前の事だろう。それがどうして、カール達の異常な取り乱しように繋がるのか……俺には皆目見当も付かなった。
だが、変わってケネスが話しを始めると、その動揺している意味を知る事になる。
「このお嬢さんが魔法を使えない事を知っていた我々は、余裕の表情で構えていました。ですが、事態は一変しました……あのお嬢さん、あろう事か魔法を暴発させてこの洞窟を破壊し始めたのですぅ~! 私とカールは慌てて暴走する彼女を止めようとしたのですが、運悪く巨大岩のトラップを踏んでしまい、こんな事になってしまいましたぁ~……」
カール達は話しを終えると、遠い目をして走るのに集中する。
その姿から漂う悲壮感は半端なモノではなかった。
「……どんまい」
「何がどんまいだ! お前の仲間のせいだろうがッ!!」
「まったくですっ! 我々がいったい何をしたというのですかぁ~!!」
つい出てしまった言葉に、カール達が猛抗議を上げる。本当にすまないと思っている……。
カール達や自分を追い詰めた張本人であるアリサは、その話しを聞いて反省しているのか、こんな事を言い始めた。
「本当にすみませんでしたぁ~。今度こそ上手く行くと思ったんですが……」
ダメだ……全然反省してなかったわ。
何処までもマイペースなアリサに呆れていると、ふいにエレナが口を開いた。
「ねぇ……あたし達、いつまでも走れば良いの?」
エレナの一言で、俺ははっとする。
確かにこの状況を打開するのに、アリサの話しやカール達の悲壮感はまったく関係ない。
「エレナな言う通りだ。何かこの状況を打開する手はないのか……」
あの巨大岩を破壊する事は出来るが、この場所で破壊するのは危険だ。なぜなら、破壊した衝撃で洞窟が崩落する可能性がある。こんなところで生き埋めになるのは御免だ……。
もっと広い場所があれば良いのだが……。
「おい、お前達。この先に広い場所はないか?」
カール達に問い掛ける。
この洞窟はこいつらの住処だ。きっと、洞窟全体の場所くらい把握している筈。
「広い場所……それなら、この先にキングの間という巨大な部屋があるぜぇ」
「まさか、そこでこの巨大岩を破壊する気ですかぁ~!」
「そういう事だ……」
俺の発言に顔色を真っ青にするカール達。
「冗談じゃないぜッ! そんな事をすれば、キングがお怒りになられるッ!!」
「そうです! そうですが……我々が助かるには、その方法しかぁ~…………」
と、二匹で何か話し合っているようだが、そっちの事情は知った事ではない。
「エレナとアリサも、いいな?」
「何でもいいから……はぁ、はぁ……早くしなさいよ!」
「はい……へっ、へっ……私も、大丈夫ですぅ~」
俺達の体力にも限界がある。二人の呼吸音を聞く限り、それは遠くないと判断出来る。
このまま逃げ続けていれば、いずれ誰かが倒れる……。
なら、やる事は一つ……なんとかそのキングの間とやらに辿り着き、そこで巨大岩を破壊する。
だが、ここで俺が魔法を使うというのも正直厳しい部分がある。エレナを罠から救ったり、ゴブリンに化けたりしたせいで、無駄に魔力を消費している。この状況であの巨大岩を破壊するだけの魔法を使えば、この先で待つ巨大な魔力を持つ魔族と戦いになった時、敗北する可能性が出てくる。それだけはなんとしても避けたい……。
苦肉の策だが、ここは彼女に頑張ってもらうしかない……。
俺は覚悟を決めて口を開いた。
「よし、アリサ……お前がこの巨大岩を破壊するんだ!!」
俺の発言に、一同は目を点にしている。
これが俺の出した最善の策である……。




