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召喚された勇者は、実は異世界の魔王だった件。  作者: 2401
第一章 勇者召喚される
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第一章 勇者召喚される1-2

「それで、さっきも言っていた召喚とは何だ? 俺は何処かに召喚されたのか?」

「半分正解です」

「半分……どういうとだ?」

「それは王族にのみ伝えられた古の魔法――『勇者召喚』により、ワイズ様を召喚したからです」


 ……『勇者召喚』。まったく聞き覚えのない魔法だ。

 そもそも名前通りの魔法なのであれば、魔族である俺が召喚される筈がない。それに、


「……待ってくれ。その『勇者召喚』という魔法を使うのはおかしいだろ」

「何もおかしなことはありません。この世界は――人類は魔王の手により脅かされているのですから!」


 マリアは語気を強め訴えかけてくる。今までにない真面目な表情だ。

 だが、マリアの言葉には違和感しかない……。

 人類が魔王の手に脅かされている⁉ 何の冗談を言っているんだ、この女は……。


「いや、ないない、ありえない! 魔王が人類を脅かす? 逆だろ、逆。人類が魔王を脅かしてるんだろ」


 実際、俺は勇者に殺されかけていた。まだ生きていることが信じられないくらいだ。

 そんな俺の言葉に、目を丸くして反論するマリア。


「それこそありえませんッ!! 魔王軍は強大で、その本拠地近隣の国々は既に魔族たちの手に堕ちています。こうしている間にも、魔族たちの餌食になっている人達がたくさんいるんですッ……!」


 涙を堪えるように言葉を紡ぐマリア。

 そんな彼女の姿を見ていると、とても嘘を言っているようには思えない。まるで、別の世界にでも飛ばされた気分だ……ん?

 待てよ……これって本当にありえるのか……いや、ないね。ありえないねッ!

 余計な事を考えるのは止めよう。そんなことより重要なことがあるだろ。


「じゃあ、勇者だ! 勇者はどうした!? あんな化け物がやられるわけがない」


 そうだ。あの化け物が居れば、こんな事にはなっていない筈だ。

 なんせ、奴の異名は魔族絶対殺すウーマンだからな。魔族が蔓延る世界を許す訳がない。

 だが、俺の言葉はマリアに否定される。


「えーっと、すみません。ワイズ様が勇者様なのでは?」


 このやり取り、三回目!! 冗談だと思われているのか。と、言うかこんな状況で冗談なんて言えるか。こっちは真面目に聞いているというのに。

 俺がイライラしていると、マリアが何かに気づいたような素振りを見せる。


「はっ、思い出しました!」

「勇者のことか!」

「いいえ違います」

「じゃあ、何だッ!?」


 マイペースなマリアに翻弄されっぱなしの俺。この姫様、人を弄ぶのが大好きなようだ。


「いいですか、よく聞いてください。『勇者召喚』とは――異世界から勇者様を呼び寄せる魔法です。なので、この世界はワイズ様がいた世界とはまったくの別物という事になります。私としたことが、こんな重要な事を伝え忘れているなんて……」


 頬を赤らめ反省するマリア。


「……マジでか?」

「マジです」


 俺の問いに対して、即座に肯定して来るマリア。

 言っていることは理解できた。むしろ、合点がいった……。

 俺の知る世界とマリアの語る世界の有様は、そっくりそのまま逆転していた。道理で話しが噛み合わない訳だ。

 だが、それでも納得のいかないことがあった。それは、


「……俺は勇者じゃないぞ」


 勇者召喚で召喚されたのが勇者ではない。

 その言葉を冗談と思っているのか、信じる素振りを見せないマリア。


「またまた、ご冗談を。私だって魔族が召喚された時はびっくりしました。ですが、そこは異世界。魔族が勇者になることもあるのだと――」

「いや、俺魔王だから」

「……へぇ? 今、なんと……?」

「だから、俺が魔王って言ったんだ!」


 マリアは信じられない。と、いった表情を浮かべている。信じたくないだろうが、これが現実だ。


「ちょちょ、ちょっと待ってください。では、私は世界を救う勇者様を召喚したのではなく――世界を滅ぼす魔王を召喚してしまった。そういうことですか……?」


 今にも膝から崩れ落ちそうなマリアを支える兵士。

 俺から距離を取りつつ後退して行く。

 もう一人の兵士はこちらを警戒しながら剣を構えている。

 ……ああ、どうやらやっちまったらしい。さすがに魔王だと明かすのはまずかったか。

 魔族と魔王じゃあ聞こえが違うからな。


「すまん……やっぱり、さっきのなしで」

「いや、無理だろ」

「ですよね~」


 俺の冗談は兵士に一蹴された。さて、どうしたものか……。

 このままでは、元の世界に戻る方法も分からない。まあ、戻ったところであの化け物に殺されるだけだがな……。

 これからどうしたものかと考えていると、何かを決心した面持ちのマリアがこちらに向かって歩いて来る。


「姫様、お戻りください!!」

「あいつは魔王なんですよ!!」


 兵士達の声にマリアは応えない。ただ一心不乱にこちらを見据え、一歩、また一歩と近付いて来る。そして、


「……ワイズ様。あなたにはこの世界を救って頂きます!」


 マリアは宣言した。俺に向かって、世界を救えと。


「いやいや、話し聞いてたか? 俺は魔王なんだぞ。魔王が魔王を倒して世界を救うなんて、そんな頭の悪い話し聞いたことがない」

「いいえ、あなたは魔王ではありません。勇者様です――この世界では!」

「いや、そんな子供の屁理屈みたいなこと言われても」

「屁理屈でもなんでも良いです。これは契約なんです!」


 滅茶苦茶なことを言い始めるマリア。さっきの緊張感を返してくれ……。

 だいたい、契約ってなんだよ。そんなの結んだ覚えはないぞ。


「ワイズ様には私に大きな借りがあります」

「初対面の相手に――ましてや異世界の人間に借りがある訳ないだろ」


 あまりの状況変化に頭がついていけなくなったのか、マリアはおかしなことを言い出し始めた。借りてもいないものを返せとは、無茶な話しである。

 馬鹿馬鹿しいにもほどがある。と、呆れていた時。


「私は……ワイズ様の命を救いました! 召喚された時、ワイズ様は瀕死の状態で息もしていませんでした。最初は魔族を治療するなんて、と抵抗もありましたが、勇者様は私の声に応えてこの世界に来てくださったのだと思うと、体が勝手に動いていました。この世界を救ってくださる唯一の希望をこんな所で死なせてはいけないと……」


 マリアは語ってくれた。俺が召喚され、俺の身に何が起こっていたのかを……。

 そのおかげで気になっていたことが一つ解消された。

 勇者との戦い(一方的な暴力)で気を失う程のダメージを受けていたのに、目を覚ました時には傷どころか痛みすらなかった。

 こんな状況だったので、勇者との戦いなど初めからなかったのかと疑いもした。だが、ボロボロの着衣が勇者との戦いを物語っていた。

 まさか、こんな滅茶苦茶なお姫様に助けられるとはな……。


「ワイズ様には借りを返して頂く義務があります!」


 マリアはまだ何か言っている。借りがあるとは良く言ったものだ……。


「……はぁー。どうやら押し付け詐欺に引っ掛かってしまったらしい。よりにもよって、一国のお姫様が相手とは。こりゃあ、逃げられそうにないな……」

「ワイズ様? いったい何をおっしゃっているのですか!?」


 ――ちっ、勘の鈍い奴だ。

 これじゃあ、直接言うのが恥ずかしいから遠回しに言ったのが、余計恥ずかしくなるじゃねーか。


「……なしだ……きいてやる」

「はい?」


 なんで伝わらないんだよ。くそっ!

 ――ええい、ままよ!


「だから、話だけは聞いてやると言ってるんだッ!!」

「――ありがとうございます、ワイズ様!」


 満面の笑みを見せるマリア。そのありがとうは、契約成立のありがとうだよな。

 決して、私の思い通りに動いてくれる玩具をありがとう。という意味ではないよな。

 そんな俺の気持ちを知らないマリアは、承諾を得た事に浮かれ意気揚々と話しかけて来た。


「ではワイズ様、参りましょう」

「参るって、何処に行くんだよ?」

「決まっています。勇者誕生を祝う為の式典会場です」

「いや、そんな面倒臭そうなネーミングの式は御免だ……」

「ダメです! 苦情は一切受け付けません。だって、私は勇者様の契約者ですから」


 くそっ……それを持ち出すのは反則だろ。

 彼女には逆らえない。返しても返しきれない借りが二つもできてしまったのだから。

 一つは彼女の語ってくれた通りだろう。そしてもう一つは、彼女が知る由もない事、勇者から間接的とはいえ助けてもらった事だ。

 勇者召喚がなければ、今頃この世にはいなかっただろう。

 一度死んだ身……いや、二度の間違いか。まあ、俺の出来る範囲のことはやってやろう。

 果たして、このお姫様に何処まで付いていけるかは疑問が尽きないが……。

 絶望の淵に立たされた俺の気も知らないマリアは、楽しそうに微笑んでいる。


「式典ではサプライズも用意していますので、楽しみにしていてくださいね」


 ……本当に勘弁してほしい。

 そう心の中で呟きながら、マリアの後を追う。

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