第三章 勇者潜入する4.5
空が赤く染まる夕暮れ時、とある洞窟の前に一台の馬車が止まっている。
「……やっと着いたか」
「あなたが道を間違えなければ、もっと早く着いていたと思いますがねぇ~」
「だから、あの時謝っただろうが!」
「そうでしたねぇ……では、参りましょうか」
馬車には二匹のゴブリンが搭乗しており、乱暴な口調のゴブリンがひょろ長いゴブリンに対して怒りを露にしているようだが、それを気にも留めないひょろ長のゴブリンは馬車を降りて行く。
「おい、無視するなよケネス!」
「うるさい奴ですねぇ~、カールは……」
カール、ケネスとお互いを呼び合うゴブリン達は、口喧嘩をしながら洞窟の方へ歩いて行く。
そして、洞窟の前に立っていた一匹のゴブリンを前にして立ち止まる。
「「只今戻りました、ライネス様ッ!」」
二匹のゴブリンは、ライネスと呼ぶちょび髭を生やした気難しそうな表情を浮かべるゴブリンに平伏する。
それを満足げに眺めるライネスは、カール達に感謝の言葉を贈る。
「ご苦労だったな、お前たち。表を上げるがいい」
その言葉を受けた二匹のゴブリンは、片膝を地面に付けたまま顔を上げる。
「それで、例の作戦は上手く言ったのか?」
ライネスがカール達に問う。
「勿論、ライネス様の言いつけ通り、町から若い女達をたくさん攫って来ましたぜ!」
「それは素晴らしい! キングもさぞ、お喜びなられる筈!!」
カールの言葉に喜びの声を上げるライネス。
その様子を見ていたケネスが、こんな事を口走った。
「そうですねぇ~。なんせ、この計画はキングを喜ばせる為のサプライズなのですからぁ~!」
三匹のゴブリンは逸る気持ちを抑えられない。と、言った調子である。
その浮かれた様子から一番早く抜け出したライネスは「おほん」と咳払いをして、カール達にある命令を下した。
「そのサプライズを成功させる為にも、そこにある馬車を森の奥へ隠して来てくれないか」
「えっ? 今すぐキングに献上しないんですか?」
ライネスの言葉に疑問を呈するカール。
「こちらにも準備がある。万が一、女の存在がキングに知られてしまったら、サプライズではなくなってしまうだろ」
「なるほど、さすがライネス様だ。ゴブリンエリートの名は伊達じゃありませんね」
「当然だ! 分かったら、さっさと馬車を移動させるがいい」
カールの言葉に気分を良くしたライネスは、偉そうにカール達に命令する。
「……はっ、我々にお任せを!」
ライネスの言葉にケネスが答えると、カールを伴って馬車の方へ移動していく。
その様子を下卑た笑みで眺めるライネス。
「……馬鹿な奴らめ。何がキングを喜ばせるだ……冗談も大概にして欲しいモノだ」
馬車が森の奥へ移動して行くのを見送ると、ライネスはぼそりと呟き始めた。
「……計画は順調。あとは、異変を察知した町の人間達が、私の流す情報でこの洞窟に女達を取り返しに来る。そうすれば必ず人間とキング達は争う事になり、どちらかが倒される。もしくは……共倒れになってくれれば僥倖。あとは、それを手土産にあの方へ取り入る事が出来れば、私の地位は揺るぎないモノへと変わる! 覚悟するがいい……人間の味方をする愚かな……よ…………」
ライネスは自らの野望を語り終えると、満足そうに洞窟の奥へと姿を消して行く。




