第三章 勇者潜入する3
辺りは日が暮れ出し、俺達の乗る馬車を赤く照らしていた。
まだゴブリン達が向かった場所に着く気配はなく、馬車は延々に街道を走り続けていた。
俺は引き続き、アリサに話しを聞いていた。
「そういえば、お前はギルドに所属してるんだよな」
「はい。魔法使いとして所属してます」
「なら戦闘は大丈夫だよな。ここからは荒事になる可能性が高い。もし不安な事があるなら、今の内に言っといてくれ」
敵を前にして、実は戦えません……なんて言葉は通用しない。戦えないなら、アリサは馬車に待機してもらった方が安全だ。
正直エレナだけでも大変なのに、さらにもう一人お荷物が増えるなんて事になれば、流石の俺も荷が重い……。
そんな俺の予想は見事に的中した。
「あの、私……魔法が上手く使えないんですぅ~」
「……はぁ? お前、魔法使いなんだろ」
「はい。でも、本当なんですぅ~」
そう必死に訴えかけてくるアリサ。いやいや、待て待てあり得ないだろ!
魔法が使えない魔法使いって、表記ミスか何かか……。
道理でおかしいと思っていたのだ。アリサから感じる魔力量は並大抵の人間より遥かに多い。なのにリザードマンの大群からは逃げるだけ、ゴブリン達にはあっさり捕まる始末。
「そんなので、どうやって今までギルドの仕事をこなして来たんだ?」
「それは、さっきの話しにも出て来た仲間に助けてもらって、何とかここまでやってきたんです」
申し訳なさそうに答えるアリサ。
「それじゃあ魔法が使えないって、どの程度のモノなんだ?」
「そうですねぇ~。詠唱までは上手くいくんですが、いざ魔法を発動しようとすると暴発したり、不発だったり、自分でも制御出来ないんですぅ~」
「それはまた、困ったもんだな……」
規格外のお荷物だぞ、これは……。
アリサの話しを聞く限り、暴発や不発を繰り返すランダム魔法なんて、ただの危険物でしかない。とてもじゃないが、戦闘に参加させる訳にはいかない。
「まあ、なんだ……こいつでも飲んで今は忘れようぜ」
俺は荷台に置いてある食料を保管している木箱からお酒の瓶を取り出した。
「……お酒、ですか?」
「ああ。こいつはリラックス効果もあるから、今の状況には持って来いだろ」
飲み過ぎは良くないが、少量なら気持ちを高める位の効果はある。
今から敵の本拠地に乗り込む訳だし、俺だって少しは緊張を解したい。
食料保管庫の隣にある木箱から二人分のグラスを取り出し、お酒を注ぐ。
「ほら、お前の分だ」
グラスをアリサに手渡す。
「私、お酒って飲んだ事ないんですよねぇ~」
そう言って、手渡されたグラスを両手で受け取るアリサ。
「なら良いタイミングだ。グイっと一杯、飲んでみろよ」
俺は自分のグラスに入った酒を飲みながら、アリサにも勧める。
こういうのは勢いが大事だ。初めてを経験するのは悪い事じゃない。
俺が酒を飲んでいるのを見ていたアリサは、それに倣ってグラスに口を付けた。
「良い飲みっぷりじゃねぇーか」
グラスに入っていた酒を一気に飲み干したアリサは「ふー」と息を付き、
「……お、おしゃけっちぇ~、にゃんか目がみゃわりましゅにぇ~」
「あ、アリサ……? 大丈夫か?」
たった一杯のお酒を飲んだだけで明らかに酔っぱらっている様子のアリサは、呂律も回っておらず顔もリンゴのように真っ赤だ。
まさかここまでお酒に耐性が無いとは思わなかった。なんとかしなければ……。
「じゃいじょうびゅでしゅよぉ~……わちゃしは――」
と、呂律が回っていないアリサは喋っている途中にぶっ倒れた。
その拍子にいつも被っている帽子が落ちてしまったが、今はそんな事に気を取られている場合ではない。
「お、おい、アリサ……大丈夫か!?」
ぶっ倒れたアリサに駆け寄り、声を掛けながら体を揺すったが反応がない。おいおい、冗談じゃないぞ……。
俺はどうすればいいか分からずあたふたしていた、その時、
「さっきから騒がしいけど、何かあったの?」
エレナが馬車を動かしながら、こちらに声を掛けて来た。
丁度いい、エレナに助けを求めよう。
「エレナ、すまんが――うあぁッ!!」
エレナの居る方へ顔を向けていたら、突然俺の体に強い衝撃が与えられ、床に背中を打ち付けた。な、何だ急に……!
自分の身に何が起きたのか確認する為に目を開くが、何かに圧迫されているらしく何も見えなかった。この圧迫している何かだが、妙に柔らかく温かい……まるで、人肌のような感じだ。
そんな事を考えていた時、エレナが馬車を止め荷台に乗り込んで来た。
「ちょっとあんた達、人が聞いてるんだから、返事くらい――って、何してるのよ、あんた達ッ!!」
荷台に来るなり急に騒ぎ出すエレナ。
その反応に既視感を覚えた俺は、直ぐに現状を把握した。
「みょうぎゃみゃん……できましぇーーーんっ!!」
俺を押し倒す形で倒れ込んで来ていたアリサが、急に起き上がり訳の分からない事を叫び出した。
その叫びと共に――アリサの魔力が変異して行くのを感じた。
「ちょっと、アリサ……あんた、その姿は……それになんて凄い魔力なの……」
エレナが感じる位に、アリサの魔族としての魔力は膨れ上がっていた。
こいつは洒落にならないレベルでやばい奴だ……。
「……う~んっ、何十年ぶりかしら……表に出て来られたのって」
俺の腹部に跨って伸びをしている妖艶な美女――おそらく、アリサが魔族化した姿だろう。
栗色の短い髪は、灼熱のように燃え盛る炎のように長く赤い髪に変わり、その頭には小さな角が両端から生えている。瞳の色は、血液のような赤いワインレッドに変わっており、背中には服を突き破って大きく開かれた黒い翼が生えていた。
その変化はどれも驚くべきモノだったが、これ以上に俺の目を引く変化があった。それは、急激な身長の変化である。
アリサの身長は俺の胸辺りまでしかなかったのだが、魔族化したアリサは明らかに身長が伸びていてた。そのせいで着ている服のサイズが合わず、上がへそ出しスタイルになっているのが俺にとっては目に毒だった。
そんなアリサをまじまじと見つめていると、こちらに気付いたらしいアリサが、
「あら、ちょっと窮屈ね……」
と言って、徐に服のリボンをするりと外すと、きっちり上まで留められているボタンを一つ、また一つと外していく。
「ちょ、おまッ……!?」
俺は大慌てで顔を手で覆った。
そんな俺の反応を見たアリサは、
「うふ、可愛い……まるで思春期の子供みたいね」
俺の情けない姿を楽しんでいるのか、嗜虐的な笑みを浮かべているアリサ。
そんなアリサの姿を、俺は指の隙間から覗いていた。そう、これも世界を知る為には必要な事……決してやましい事ではない。
そう自分に言い聞かせ、アリサを凝視する俺。
服のボタンを全て外したアリサの姿は、艶やかな肢体が露になり、豊満に実った二つの果実が下着に包まれているのが返って俺には艶めかしく映った。生きていてよかった……心からそう思えた瞬間だった。
アリサの肢体を心から堪能していたその時である、アリサと目が合ったのは。
「うふ、さっきからじろじろ見てるのはお見通しよ。そんなにこの体に興味があるの……?」
俺を誘うように自分の胸を両手で両端から押さえつけ強調してくるアリサ。
その姿を見た俺は、顔を覆っていた手を退けて、それに釘付けになっていた。もう一杯一杯で訳が分からなかったのだ……。
「ちょっと、あんた達! いい加減にしなさいよねッ! 一度ならず二度までも、あたしの前でイチャイチャ、イチャイチャ……こっちの身にもなりなさいよねッ!!」
この状況を見兼ねたエレナが、アリサの行為を止めようと怒鳴り散らしながら近づいて来る。
「ごめんね~、エレナちゃん……でも、ワイズくんの童貞は……私が頂いちゃいまぁ~す!」
アリサはおどけた感じで、エレナに宣言した。
ど、どどど童貞ちゃうわ―――――――ッ!!
「ど、どう、ていって……殺す……絶対に殺すッ! 今すぐその魔族の首を掻っ切ってやるわッ!!」
アリサの余計な発言で、エレナの堪忍袋の緒がブチ切れた。や、やばい……。
エレナは剣を抜こうと腰に右手をやると、その瞬間、
「ざ~んねん……させませんっ!」
と言って、急に『バインド』の魔法を使いだしたアリサの手から魔力紐が放たれ、あっと言う間にエレナを拘束してしまった。詠唱もなしに魔法を使うとは、アリサから聞いた話しとはまったく違うではないか。
「ちょ、ちょっと、放しなさいよッ!」
体を魔力紐の輪で拘束されたエレナは、荷台の床でもがいている。
その哀れな姿に思わず「ざまー」と言ってやりたかったが、今の俺にそんな余裕は無い事を思い出す。
「さて、邪魔者は大人しくさせたし……まずは味見と行きましょうか!」
テンションマックスと言った調子で舌なめずりをするアリサ。このままでは俺のどうて……いや、何でもない。とにかく俺の身が危険なのは確かだ。
だが、俺はそれほど焦ってはいなかった。三大欲求の一つ的には焦っているが、それは関係ない。
アリサの正体は、姿形と今までの行動で見当が付いている。なら、後は弱点を突いて大人しくすれば良いだけの話し。つい勢いに流されて数々の失態を冒してしまったが、もう大丈夫だ。俺の欲望は満たされた……。
アリサは俺に背を向けて、股間に手をやろうとする。その時、
「――はぅ!!」
と、なんとも可愛らしい悲鳴がアリサの口から漏れ出した。
「……この時を待っていた」
俺はアリサにそう告げる。
「や、やめてっ……はな、してッ……そこは……ダ、ダメなのっ…………」
先程まで余裕の表情を浮かべていたアリサが、今は力なく喘ぐだけで精一杯の状態にまで追い込まれていた。
俺は形成逆転と高笑い、こちらを恨めしそうに見てくるアリサにあるモノを見せつけてやった。
「こいつがお前の弱点である事は承知済みだ」
俺の右手が掴んでいるのは、アリサのスカート裾から出る、黒くしなやかな尻尾だった。
この尻尾こそ、魔族『サキュバス』の弱点である。
リザードマンの時もそうだったかが、魔族や魔物についての教養は戦闘になった時に必要だ。と、あいつに叩き込まれていたので弱点などは把握済みなのだ。
「これで、お前は自由に動く事が出来ない筈だ」
「……んんっ」
アリサに話しかけるが、余程きついのか返事する事なく小さく喘ぐのみだった。何かここだけ聞いてると、俺が如何わしい事をしているように聞こえるのはなぜだろう。
「……最低ね、あんた」
と、床に転がるエレナに冷ややかな視線を送られる。
「いや、違うからな。尻尾はサキュバスの弱点だから、俺はそれを掴んだだけで……」
エレナの誤解を解こうと説明に熱が入り、つい掴んでいた尻尾に力を込めてしまった結果、
「……んんッ……あっ……もう、ダメぇぇぇぇぇッ!!」
今世紀最大の喘ぎ声を上げたアリサは、力なく倒れ俺の股間に顔を埋めた。
「ほんと……最低……」
俺の弁明はエレナに届く事は無く、最低のレッテルを貼られる事になった。
こんなのばっかだな、ちきしょぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!




