第三章 勇者潜入する2
ベルヘイムを立ち、約一時間程度経った気がする。相変わらず、馬車は街道を走っていた。
俺とアリサは馬車に揺られながら、荷台の床に向かい合わせで座っていた。
とりあえずエレナとアリサの確執問題は落ち着きを見せた。
だがアリサのハーフ問題についてはまだ問題が残っている。
まず彼女がゴブリン達と敵対していた訳とは、誘拐された仲間を救い出す事だった。ここだけ聞いていれば、アリサは魔族と敵対しているように聞こえるが、あくまでゴブリン達と敵対しているだけで、他の魔族とはどうなのかは分からない。
まあ冒険者ギルドに所属しているのだから、恐らく魔族とは敵対している筈だ。
俺が何を言いたいかと言うと、結局アリサは味方なのか、敵なのか……それが知りたいのだ。エレナのように、魔族だから敵と決めつける様な考えは持ち合わせていないので、そこをはっきりさせた上で共闘したい。
その為にも、もう少しアリサの事を詳しく知る必要があるだろう。
「さっきは大変だったな」
「……そ、そんな事ありませんよ。エレナさんの魔族に対する反応は、一般的なモノだと思いますし……私、嬉しかったんです」
……嬉しかった、どういうことだ?
「私が人間と魔族のハーフだと知って、それでも受け入れてくれたエレナさんのような友人に出会えたことが……」
心の底から嬉しそうな表情を浮かべるアリサ。太陽も顔負けだな……。
彼女の笑顔を見ていると、自然とそんな言葉が出て来た。
そんな俺を見つめるアリサ。なんだ、そんなに見つめられると恥ずかしんだが……。
「……勿論、ワイズさんにも感謝していますよ。勇者という身でありながら、こんな私に力を貸してくれてるんですから」
「そんな事、別に気にする必要はない。俺が助けたいと思ったから助けただけだ」
実際アリサは正体を明かしてくれたが、俺は隠したままだ。こんな不義理を働いた状態で、彼女に感謝される筋合いなど無いのだから。
それでも俺は正体を明かす訳にはいかない。これも魔王討伐の為……。
「そんな事より、お前の話しを聞かせてくれないか。俺はこの世界に召喚されてまだ日が浅い。だから、この世界についてもっと色々知りたいんだ」
「そうなんですか……でも、私じゃあ大した話しは出来ないと思いますよ」
「それでも構わない。俺は人間と魔族のハーフであるお前の話しが聞きたいんだ」
人間側の事情はマリアから聞いて把握しているし、魔族側は聞く相手が居ないので今は保留。そして、人間と魔族のハーフという新たな立ち位置のアリサから事情を聞く事で、さらにこの世界を知る事が出来るだろうと俺は考えている。
「そういう事ですか……わかりました。私の全てをお話しします」
「……頼む」
俺の言い分を理解したアリサは、ゆっくりと自分の生い立ちを語り始めた。
「……南西に位置するとある小さな村。その村で私の父は農家を営んでました。ある朝霧の濃い日、父はいつものように畑に顔を出すと、見知らぬ女性が畑で倒れて居るのを発見しました。その女性は酷く衰弱していて、父は慌てて家に連れて帰り、看病したそうです。その甲斐あって、女性は日に日に元気を取り戻し、助けてもらった恩を返す為と父の農家を手伝い始めました。こうして二人の距離は一気に縮まり、あっという間に結婚……そして、私が生まれました」
この時、アリサの表情が暗くなり始めた。
「それが悲劇の始まりでした……。生まれた私の姿は――頭に小さな角を生やし、下半身には黒く長い尻尾が生え、瞳は血液のように真っ赤だったらしいです。この姿を見た父は、初めて母が魔族である事に気付いたんです。それでも父は関係無いと、母や私を愛してくれました。幸いにも私の姿は直ぐ人間に戻ったらしく、騒ぎになる事はありませんでした。そして、私が物心つく頃に事件が起きたんです……」
暗くなっていたアリサの表情が、どんどん辛そうな表情へと変わって行く。
「ある日、村を襲う魔物の軍勢が現れたんです。ただの村人が魔物に敵う筈もなく、多くの人々が犠牲になりました。私達家族の下にも魔物が現れましたが、母が魔族の力を使い魔物達を次々と倒して行ったんです。魔物達が全て倒された後、魔族の姿をした母を見た村人達が魔物を呼んだのは母だと勘違いし、戦いで疲弊している母と、それを庇う父と私を追い詰めて行きました。もはやここまでと覚悟した時、母が最期の力を振り絞り、私と父を逃がしてくれたんです。勿論、そんな事は私と父も望んでいませんでした。母と共に生きたかったのに、それは叶いませんでした……」
アリサは涙を堪えながら自分の過去を語ってくれた。
やはり、人間と魔族は分かり合えないのか……。
そう思わせる程、アリサの過去は壮絶なモノだった。
「こうして村を追われた私と父は、村から離れた場所で暮らし、十年の月日が経ちました。私は父の下を離れ、旅に出る事に決めました。人間と魔族が共存出来る方法を探し出し、二度と私達親子のような悲劇が起きないようにする為に……」
全てを話し終えたのか、アリサはそっと目を閉じた。
「……何か凄いな、お前」
上手く言葉に出来なかった。
人間と魔族が共存する道は、遥かに険しいモノだと改めて思い知らされた。
そして、アリサの目指す道はとても素敵なモノだとも思えた……。
「そんな凄いだなんて……私はまだまだ未熟者ですよ」
先程の辛そうな表情は消え、笑みをこぼすアリサ。
それを見て俺は安心した。彼女はとても強い……。
「未熟だからこそ語れるモノがある。お前の話しを聞いて、俺はそう思った」
俺もまだまだ未熟者……だからこそ、色々な事を知らなければいけない。楽しい事、嬉しい事、悲しい事、どんなに辛い事でも俺は知っておかなければいけない。
それが俺の第二の人生だから……。
「……ワイズさんって、意外とロマンチストですよねぇ~」
――なッ! 急に何を言い出すんだ。
「何々、またアリサを口説いてるの?」
エレナが余計な口を挿んでくる。
「口説いてないし、ロマンチストでもないッ!!」
と、怒鳴りつけるが、二人はニヤニヤするのを止めなかった。




