第三章 勇者潜入する1
「本当に合ってるんだろうな?」
「大丈夫です。私、捕まってた時にあの人達が話してるのを聞いてましたから」
俺達は馬車に乗り、例の誘拐犯達の後を追っていた。
アリサは俺と荷台に乗り、エレナが馬車の手綱を握っている。
「それなら良いんだが……」
俺の隣で話すアリサにそう伝えた。
あの時は感情的になっていて、つい勢いに流されてしまった。だが、よくよく考えてみると、アリサがゴブリン達の向かった先を知っているなんて根拠、何処にもない事に今さらながらに気づいてしまった。
まあ、あの状況で嘘を付くメリットだって無い訳だし、俺だって本気で疑っている訳ではない。
それでも、アリサには疑いたくなるような疑惑が残っている事を俺は忘れていない。
「……アリサ。突然だが、どうしてお前はあのボロ小屋に一人取り残されていたんだ?」
疑惑を追及する為にも、アリサから情報を聞き出す必要がある。
この質問に対して、アリサは言葉を詰まらせながら答え始めた。
「そ、それはですね……なんといいますか……そうです! どうやら、私はあの人達のお眼鏡に適わなかったみたいで……」
と、明らかに嘘だと分かる言葉を並べるアリサに対して、俺ははっきりと言ってやった。
「そういう嘘は良い。酒場での時もそうだったが、お前は都合が悪くなると直ぐにばれるような嘘を付く」
「う、嘘じゃありませんよぉ~。あの時だって、本当に用事がありましたし……今回だって……」
尚も嘘を貫き通そうとするアリサ。彼女の一杯一杯な顔を見ていると、こっちが悪い事をしているみたいでいたたまれなくなってくる。
そんな心を鬼に変え、俺は魔族の事を切り出した。
「魔族の事だろ……お前が隠したがっている事って……」
「あんた、まだそんな事――」
「うるさい。お前は黙ってろ!」
エレナの余計な声を遮る。あいつは空気を読めない女子№1だな。
「…………」
そんな事を考えながら、アリサの返事を待っていたのだが、彼女は口を開く事なく俯き黙り込んだ。それが、俺には答えだと言っているように聞こえた。
「お前は魔族だから、あのゴブリン達に危険だと思われた。だから、お前だけはあの小屋に拘束されていた。なぜ、同じ魔族同士で争っているのかは知らないが、お前にも訳があるんだろう。その訳を、話してくれないか……?」
俺だって魔族――それも魔王なのだから、救える同胞は救いたい。昔の俺なら何も思わなかっただろうが、今はそう思える。
まだまだ旅は始まったばかりだが、色々な人と出会い、触れ合った結果がこれなのだ。
俺の想いが届いたのか、アリサはそっと口を開いた。
「私が……魔族……そんな訳…………」
やはり、俺の想いは届かなかったのか……そう思っていた時、
「いえ、止めます……。もう、嘘を付くのは止めますッ!」
急に顔を上げ、何かを決心したような目を俺に向けるアリサ。
俺は黙って彼女が次に発する言葉を待った。
「……ワイズさん達に二度も助けられて、これからまた助けて頂くというのに……そんな人達を偽わり続ける事は出来ません……」
アリサは苦しんでいた。
命の恩人である俺達に嘘を付き続けていたことを。
そんな彼女が勇気を振り絞って、俺達に真実を告げる。
「私は……人間と魔族のハーフなんですッ!!」
「やっぱりそうか……って、人間と魔族のハーフッ!?」
予想外の答えに、俺は驚きを隠せずにいた。
魔族である事は間違いないだろうが、人間と魔族のハーフって、そんなの聞いた事ないぞ。
「私の母が魔族で、父は人間でした。なので、私はハーフなんです」
「そんな事って、あるのかよ……」
あまりの出来事に、まだ信じられない自分が居た。
そんな時である。エレナが急に馬車を止めだしたのは。
――キィー! と鈍い音を鳴らして止まった馬車に俺は思わず、
「……うおッ! また、この展開かよッ!」
と、ツッコミを入れざるを得なかった。
今回は馬車が縦に揺れるような衝撃ではなく、軽く揺れた位だったので、俺とアリサも多少体を揺さぶられる程度で済んだ。そのおかげで、アリサとのあれな出来事を思い出した俺の顔は、朱色に染まっていたと思われる。
まあ、そんな事はどうでもいい。なぜ、急に馬車を止めたのか問い質さないと。
「おい、エレナ。一体何が――」
「どういう事よッ!」
先程まで馬車を操縦していた筈のエレナが、急に荷台に乗り込んで来た。
そして、血相を変えこちらに向かって怒鳴り出し始めた。
「……はぁ? どうしたんだよ急に……」
「アリサ、あんたが魔族ってどういう事ッ!!」
その言葉で全てを理解した。
エレナはアリサが魔族であるという事を、俺が何度説明しても頑なに信じようとしなかった。
それを本人がハーフとはいえ、魔族と認めてしまったが故にエレナは馬車を止め、こちらに乗り込んで来たという訳だ。
「……ふぇ? どうしたんですか、エレナさん」
いまいち状況が呑み込めていないらしいアリサは、いつもの調子で返事をした。
「私は魔族を許さない! それが人間と魔族のハーフだとしてもッ!!」
今にも剣を抜こうとする勢いのエレナ。
その様子に怯えた表情を見せるアリサ。
俺は慌てて二人の間に割って入る。
「ちょっと、待て! お前が魔族嫌いなのは知ってるが、相手はアリサだ……」
「それが何よ……私の邪魔をしないでッ!」
「お前、それ……本気で言ってるのか?」
俺はエレナの言葉に深い怒りを感じた。
「本気に決まってるでしょ! 私は魔族の事で冗談なんて言わない……。騎士として、必ず魔族を滅ぼすと誓ったからッ!!」
「それが友人だったとしてもかッ!!」
「……ゆう、じん?」
俺の言葉に反応するエレナ。
それを見た俺は、言葉を掛け続けた。
「だって、そうだろ。ギルドの受付でおっさんが言ってたじゃねーか。お前とアリサが友人だって……違うのか?」
「……あれは、違う。アリサは友人じゃなくてただの知り合い……私には関係のないただの魔族よッ!」
アリサの事を魔族魔族と言うが、エレナは肝心な事を忘れている……。
「……違う。それは違うぞ、エレナ。アリサは魔族だが、人間でもあるッ!!」
「……なッ!!」
「なぜお前がそこまで魔族を憎むのかは知らない。だけど、人間であるアリサとは友人の筈……。なら、友人に剣を向けるのが、この世界では当たり前の事なのか?」
俺がこの世界で学んだ友人というモノは――そんな酷いモノではなかった。
俺を魔族と知った上で命を救ってくれたマリアのように……。
「……くっ、それでも私は、魔族を許す事は…………」
エレナは葛藤に苦しんでいた……己の掲げる正義と己が守るべき友情の狭間で……。
俺の目には、エレナの姿がそういう風に映った気がした。
あとはエレナ次第だ。どちらを選んでも、俺がきちんと対処する。後悔しない為にも……。
そう覚悟を決めた時、後ろでアリサが動いた。
「もう止めてくださいッ!!」
「……アリサ、急にどうしたんだ?」
俺の後ろに居たアリサが大きな声で叫ぶので、焦った俺は振り返った。
「ちょっと良いですか。エレナさんにお話しがありますので……」
そう言ったアリサの目には、確かな意思が込められていた。
「わかった。ここはお前に任せる」
アリサの意思を尊重し、俺は道を譲った。
元はアリサとエレナの問題。俺が出しゃばるのは、どうにもならなくなった時だ。
今度こそ覚悟を決め、二人の会話を静かに見守る。
「エレナさん! どうか、私の話しを聞いてくださいッ!!」
「魔族の言葉に……耳を貸す気は無い」
アリサの言葉に動揺している様子のエレナ。
言葉ではアリサを否定しているが、感情の部分で否定し切れていないような印象を受ける。
アリサも俺と同じ気持ちなのか、エレナの言葉を無視して感情で語り始めた。
「私は人間と魔族のハーフなので、どちらの種族からも嫌われていました。人間からは魔族と煙たがられ、魔族からは人間と罵られて生きてきました。なので、私の居場所は何処にもありませんでした」
「そ、そんな話しで……私が同情するとでも思ってるの……」
アリサの話しを聞いていたエレナは、先程より動揺しているようだ。
「同情して欲しいとか思ってません。こんな私でも、理解してくれる冒険仲間が居ましたから。でも、その仲間は魔族達に誘拐されました……。ですから、私はその仲間を救いたいんですッ!!」
まさか、その仲間って……。
俺は確信的な事に気付いてしまったが、今は止そう。
「お願いしますッ、エレナさん!! 私に力を貸して下さい!!」
エレナに向かって頭を下げるアリサ。
その様子を真剣な表情で見ていたエレナは、溜息を吐きながら応えた。
「……わかったわよ。ゆう、じん……の仲間を見捨てる訳にはいかないしね」
エレナは恥ずかしそうに頬をかいている。
「エレナざぁあああぁぁぁぁん!!」
そんなエレナに抱き着くアリサ。
「……うっ!」
「ありぃがぁとぉうごぉざぁいまぁずぅ~」
アリサに抱き着かれた拍子に小さな呻き声を漏らしたエレナだが、お礼を言いながら涙を流すアリサに戸惑いながらも笑みをこぼした。
どうにか上手く収まったようで、俺はほっと胸を撫で下ろした。
「……でも、勘違いしないでよね。私は人間であるあんたとは友人だけど、魔族であるあんたとは絶対に仲良くなんてしてあげないんだからねッ!」
エレナの意味不明なツンデレ頂きましたッ!!
とにかく、これでこの問題は解決した。
俺とアリサは荷台の床に座り、エレナは馬車を動かす為に移動を始めた。




