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召喚された勇者は、実は異世界の魔王だった件。  作者: 2401
第二章 勇者旅立つ
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第二章 勇者旅立つ9

「ようやく着いたか……」


 俺とエレナはベルヘイムの住宅区を抜けた街道の道外れにあった、小さなボロ小屋の前に立って居た。

 小屋の周りは木々に囲まれており、普通に街道を使用する分には見つかる事は無い立地条件だった。こんな場所を拠点にしていたとは、やはり侮れない連中だ……。


 誘拐犯達にわざと着いて行くエレナを『ステルス』で気付かれないように尾行していたら、この場所に辿り着いた。


 二人の男達は小屋から少し離れた場所で何かを話している。

 俺はエレナに話し掛けるチャンスだと思い、『テレパシー』で心に話し掛けた。


『おそらく、ここが奴らの拠点だろう。小屋の中を調べたいから、お前は奴らの注意を引き付けておいてくれ』


「……わかったわよ」


 俺が近くに居る事を知っているエレナは、小声で返事をすると誘拐犯達の下へ歩き出した。

 いくら誘拐犯達が離れた位置に居るとはいえ、勝手に扉が開いたりすると気づかれる可能性がある。ここは、エレナが注意を逸らしている内に侵入するのが得策だろう。

 それに、この小屋に誘拐された人達が全員捕まっているとは限らない。もし、別の場所にも居た場合、後手に回ってしまう事になる。それはなるべく避けたい。


「……よし、こっちを見ていないな」


 エレナが上手く誘拐犯達の視線を逸らしている隙に、俺は小屋の扉を開こうと手を伸ばした。その時である。


「ちょ、ちょっと……止めてッ! 放しなさいよッ!!」


 エレナの怒声が耳に入り、扉を開く手を止めそちらに視線を向ける。


「ふっふっふ……大人しくしてもらおうか」

「逆いますと、痛い目をみますよぉ~」


 カールに両腕を掴まれ、羽交い絞めにされているエレナの姿があった。

 その様子を薄気味悪い声を上げて見ているケネス。最悪の展開だな……。


「さあ、お前もあの方への献上品に加えてやる」

「あの方の喜ぶ姿が目に浮かびますねぇ~」


 注意を逸らしていたつもりが、相手に捕まってしまうとは……。

 仕方がないので小屋から一旦離れ、エレナを救出しようとした時である、エレナが動き出したのは――


「さっきから、うっさいのよ……この腐れ外道がッ!!」


 急に叫び出したエレナは、頭を下にすると、相手の顔面めがて後頭部を打ち付けた。

 その不意打ちを食らったカールは「うべッ!!」と情けない声を上げ、掴んでいた両腕から一瞬力が抜ける。その一瞬を逃さないエレナは両腕を上に挙げて、カールの腕からするりと抜け出し、油断していたケネス諸共足払いで転倒させた。


「形成逆転よッ!!」


 と、高らかに声を上げて、倒れている誘拐犯達に剣を突き付けるエレナ。それを見た男達は「ひッ!」と小さな悲鳴を漏らしている。


「お見事……」


 エレナの鮮やかな手並みに思わず感嘆の声を漏らした俺。危ない……。

 『ステルス』のおかげでその声を聞かれる事はなかったが、もしエレナの耳に届いていたなら調子に乗っていたに違いない。奴を調子付かせると、色々面倒だからな……。


「あんた達が誘拐犯だという事はお見通しなのよッ! 分かったら、大人しくお縄に付きなさい!」


 完璧に勝ち誇った様子のエレナ。言葉からも油断の色が見える。

 このまま何も起こらずに捕まってくれれば良いのだが……。

 という俺の願いは、聞き入れてもらえなかったようだ。


「……お嬢さん、俺らを舐めてもらっちゃ困るぜ」


 と、カールが口にする。


「ええ、まったくですねぇ~」


 それに同調するケネス。

 剣を向けられ絶体絶命な筈の二人だが、なぜか不敵な笑みを浮かべていた。


「負け惜しみは止める事ね。あんた達に逃げ場なんてないんだから」


 誘拐犯達の言葉をはったりと決めつけるエレナ。

 そんなエレナに怯むことなく、カールは叫んだ。


「じゃあ、この姿を見ても同じ事が言えるかなッ!」

「後悔して下さい……私達を怒らせた事を!」


 咆哮するように叫んだ二人から漏れ出す煙。

 その煙がそのまま二人を包み込む……。


『エレナ、そいつらから離れろッ!!』


「な、何!?」


 二人の魔力反応が急激に変化したのを感じ取った俺は『テレパシー』でエレナに危険を伝える。とうとう、尻尾を見せやがったな……。

 俺の言葉に反応したエレナは、二人から距離を取る為に後退する。


「何なのよ、いったい!?」


 突然の事で動揺を隠せないエレナ。


『変化の魔法を解除したんだ。あいつらは、魔族なんだよッ!』


 エレナを落ち着かせる為に状況を説明する。


「魔族ッ!? じゃあ、こいつらが全ての誘拐事件を起こした犯人って訳ッ!?」


『そういうことだ。気を付けろ、姿を現すぞ!』


 俺の言葉と同時に煙が晴れて行き、その姿を俺達の前に現した。


「ふっふっふ、驚いたか!」

「これが我々の真の姿なのです!!」


 カールと呼ばれていた貴族の男は――全身真緑で身長は俺の半分以下、鎧を身に着けた騎士のような恰好をしたゴブリンの姿に……。

 一方、ケネスと呼ばれていた初老の執事は――同じく全身真緑、身長はカールよりも少し高くひょろ長い。茶色いローブを羽織ったゴブリンの姿に変わっていた。


「ゴブリン……にしては、珍妙な格好をしているわね?」


 エレナはゴブリン達をそう評した。だが、俺にはわかる……。

 このゴブリン達は普通のゴブリンではない。


『そいつらをただのゴブリンと侮らない方がいいぞ……』


 俺はエレナに忠告した。

 普通のゴブリンから感じられる魔力とは一味違った感じがする。


「ゴブリンだと……? 俺達をそこいらのゴブリンと一緒にしてもらっちゃ困るぜ!」

「ええ、まったくもって無礼千万ですねぇ~」


 ゴブリン達はエレナの言葉に呆れた様子で応えた。

 そんなゴブリン達の態度が癇に障ったらしく、俺の忠告を無視したエレナはゴブリン達に食って掛かる。


「何が無礼千万よ! ゴブリン如きが調子に乗ってるんじゃないわよッ!」


 先手必勝と言わんばかりに、剣を両手に構えたエレナがゴブリン達に突撃して行く。


『止めろッ! エレナ、戻れッ!!』


 俺はエレナに止まるよう命令するが、


「うっさいわねッ! こんな奴等、私に掛かれば瞬殺よッ!!」


 聞く耳を持たないエレナは、勢いに任せてカールに斬り掛かった。だが――


「……ふッ!」


 ――カーン! と、鉄がぶつかり合う音が響いた。


「嘘でしょ……!?」


『……言わんこっちゃない』


 エレナの剣はカールが左手に持つ盾に防がれていた。

 そのまま剣を振り払ったカールは、ケネスと共にエレナから距離をとる。


「いきなり斬りかかって来るなんて、危ねぇーじゃねぇーかッ!!」

「まったくです。それでもあなた人間ですか?」


 ギャンギャン吠えるゴブリン達……おかしい。

 今の状況ならカールは反撃が出来たし、ケネスだって動けた筈だ。それをして来ないのはなぜか……考えるには判断材料が少な過ぎる。

 今は戦闘に集中しよう。そう思っていた時である。

 エレナがか細い声で言葉を発した。


「うそ、でしょ……ゴブリン如きに……私の剣が……」


 ゴブリンに攻撃を防がれた事がショックだったらしく、戦闘中にも関わらず放心状態になっていた。

 そんなエレナを見たゴブリン達は、満足そうに名乗りを上げだした。


「はっはっはっ! これがゴブリンの上位種、ゴブリンナイトであるカール様の実力よッ!」

「ちなみに、私はゴブリンの上位種、ゴブリンメイジでございます。以後お見知りおきを……」


 カールとケネスが強力な魔族である事は分かった。

 エレナもゴブリン達の名乗りを聞き、油断ならない相手と認識を改めたみたいだ。

 放心状態から意識を取り戻したエレナは、静かに剣を構え直していた。


「あんた達を舐めていたわ……でも、ここからが本番……覚悟しなさいッ!!」


 戦いに対する意気込みを口にするエレナ。

 その意気込みは買ってやりたいが、エレナ一人で得体の知れない魔族を二匹も相手にするのは流石に荷が重い。



「待て……俺がやる」

「な、何だッ!?」

「何処から現れたのですかッ!!」



 『ステルス』を解除した俺は、ゴブリン達の背後に姿を現した。

 そして、ギャーギャー騒ぐゴブリン達に右手を向けて『バインド』の魔法を発動させる。

 俺の右手から放たれた無数の魔力紐がゴブリン達を取り囲んでいく。


「わっ、何だッ!? どうなってやがるッ!!」

「ひぇいぇぇぇいいい!! 無詠唱で魔法を使うとは……」


 『バインド』による魔力紐がゴブリン達を一塊に纏め上げた。


「まあ、お前達の悪運もここまでという事だ」


 急な出来事に動揺するゴブリン達に声を掛けた。

 その様子を見ていたエレナが、恨めしそうにこちらを睨みながら近づいて来る。


「あんた、よくも私の獲物を……」

「良いだろう、そんな事。終わり良ければ全て良しだ」

「……はぁ~。まあ、そういう事にしとくわ。今は誘拐された人達を救い出さないと」


 あまり納得はいってない様子だが、とりあえず人命を優先するエレナ。やはり、こいつの芯は正義で出来ている事だけは間違いないだろう。

 アホだが正義に厚い騎士様を見習い、ゴブリン達を問い質しますか。


「お前達、誘拐した人達はあの小屋に閉じ込めているのか?」


 『バインド』で拘束されているゴブリン達は、大人しくしている。


「ええ、あの小屋に居ますとも……」

「せっかくの貢物が台無しだぜぇ」


 俺の質問にやけにあっさり答えたゴブリン達。何だ……。

 妙な違和感を感じたが、今は誘拐された人達を助け出す方が先決。

 俺は違和感をかなぐり捨てて、エレナと共にボロ小屋へ向かって走り出した。

 拘束したゴブリン達をその場に放置して……。


「よし、開けるぞ」

「早くしなさいよ。一刻を争う状況かもしれないでしょう」


 エレナに急かされ、小屋の扉を開いた俺。

 中は外観通りのボロさで、あちこちに穴が空いていたり、壊れた家具などが放置されていた。だが、そんな事はどうでもいい。


「おい、あれ!」

「アリサッ!!」


 部屋の中央には、ロープで手首を結ばれ、口には声が出せないよう猿ぐつわをはめられたアリサが横たわっていた。


「……んんッ……んッ…………」


 アリサに意識はあり、その場で俺達に何かを訴えようとしていた。

 俺とエレナは急いでアリサの下へ駆け寄り拘束を解いてやろうとする。

 だがその時、外で馬の鳴く声が響き渡った。


「何だッ!?」

「外ですッ! 誘拐された人達は馬車の中ですッ!!」


 猿ぐつわをエレナに外してもらったアリサが、急に大声で叫び出した。

 俺は直ぐに反応し、小屋の外へ飛び出す。しかし――


「遅かったか……」


 馬車は街道の方へ走り去り、小さな影だけが見えた。

 辺りを見回すが、拘束していた筈のゴブリン達の姿も見えない。

 エレナには油断するなと言っておきながら、自分が一番油断していたとは……笑えない。

 誘拐された人達が隔離されている可能性は十分に考えられた。それを俺は……。


「ワイズさんッ!!」


 自分の不甲斐なさに打ちのめされていた時、拘束を解かれたアリサが小屋から出て来た。


「追い駆けましょう! まだ間に合います!!」


 何を馬鹿な事を……。


「無理だ……馬車に追い付ける筈が無い」


 無理と無謀は違う。

 無謀は無理でもやる事に意味があるから無謀なのだ。

 これは明らかに無理で意味のない事だ……。 

 そんな俺に声を掛け続けるアリサ。


「大丈夫です! 私――」

「適当な事を言うなッ!!」


 アリサの気休めに我慢出来なかった俺は、つい怒鳴りつけてしまった。


「ちょっとあんた、言い過ぎよ」


 いつのまにかこちらに来ていたエレナが俺を諭す。

 分かってる……ただの八つ当たりだ。俺が悪いのは分かってるんだ。

 ただ、どうしても自分が許せなかった。救えた命を救えなかったことに……。


「ワイズさん……まだ終わってません。私が終わらせません!」


 アリサは俺に堂々と宣言して来た。

 この事件を終わらせない、と……。


「さっきから何を言って――」

「私、知ってるんです! あの人達の行き先を……」


 なん……だって…………!?

 突然の事で、俺はアリサの言ってる事が理解出来なかった。


「すまん……もう一度言ってくれ…………」


 俺は理解出来なかったんじゃない。

 ただ、確証が欲しかっただけなのだ。


「分かりました。何度でも言います……」


 アリサの息遣いが聞こえる。

 俺に希望を届ける為に、一生懸命訴えかけてくる。


「行きましょう、誘拐された人達を助けにッ!!」


 その言葉が俺をまた立ち上がらせてくれた。

 二度と後悔しないように生きると決めた誓いを破らないためにも……。


「……そうだな。俺達にはまだ希望がある!」


 無理を無謀に変えてくれたアリサの為にも、この希望を失う訳には行かない。

 そう心に誓い、俺達は誘拐された人達を救うべく動き出した。

以上が第二章『勇者旅立つ』でした。

この第二章は出会いを主軸に置いており、エレナとのぎこちない二人旅から始まり、アリサという魔法使いと出会い、事件を追っていく内に敵であるゴブリンコンビと出会います。

初めての仲間と敵を前にして、ワイズはどんな感情を抱きながら事件を解決へと導いていくのか。そんな内容を詰め込んだお話しでした。

さあ、次は波乱の第三章『勇者潜入する』です。引き続きお楽しみください。

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