第一章 勇者召喚される1-1
「…………さま……ゆう……しゃ……ま」
誰かの声がする……その誰かが、他の誰かを呼んでいるようだ。
まあ、俺には関係ない。俺には家族と呼べる者も居なければ、友人と呼べる者も居ない。つまり、俺を呼ぶ奴なんて誰一人いないという事だ。
そんな俺にも、唯一心を許せる者がいた。まあ、過去の話だがな……。
「……ゆう……さま……しゃ……さま」
それにしてもしつこい奴だな……呼ばれている奴もさっさと返事をしろよ。
「……ゆう……さま……ゆうしゃさま!!」
「――さっきからうるせぇんだよ!! 人が気持ちよく眠っているというのになんなんだ!」
近くでギャンギャン騒ぐので、おちおち眠ってもいられない。
俺は体を起こして辺りを見回すが、寝ぼけ眼のせいか視界がぼやけてよく見えなかった。
だが、声がした方には確かに誰かの影があった。その影をぼーっと見つめていると、段々視界が開けて来たので、俺は目を凝らしてその姿を確認した。
すると、そこには――絵に描いたような美しいお姫様がこちらの様子を伺っていた。
そのお姫様らしき人物は、飴細工のように美しい金髪の持ち主で、翡翠色の宝石を彷彿とさせる瞳が髪の色に良く栄えている。いかにもお姫様です。と、言わんばかりの豪華なドレスを完璧に着こなす絶世の美少女だった。
その美少女は、突然こんな事を口走った。
「あの……あなたが勇者様なのですか?」
「……はあ? 何言ってるんだお前。俺の何処をどう見れば勇者なんて言葉が――」
美少女の発言に呆れていた俺だが、その単語を聞いた瞬間、ある重大な出来事が頭をよぎった。
「――ああぁぁぁぁぁぁぁ!! 思い出したぁ!!」
回りの目を気にする事なく叫んだ。何でこんな重要な事を忘れていたんだ……。
「キャっ!」
「姫様、お下がりください!!」
「奴は危険です!!」
突然叫び出した俺に危険を感じたのか、姫と呼ばれる美少女の傍らに控えていた二人の兵士と思しき甲冑姿の男達が俺の前に立ち塞がる。
腰に差した剣を引き抜き、俺に向かって構える。
だが、そんなことは関係ない。思い出したのだ。俺がどういう状況に置かれていたのか。
だからこそ確認しないといけない――奴の存在を……。
「おい、お前ら――勇者は何処に行ったんだッ!?」
――そう。俺は勇者に殺されかけていたのだ。物凄い光の衝撃波に呑み込まれ、意識はぶっ飛んだ。
そして、目覚めてみればこの状況だ。まったく訳が分からない……。
「あの、勇者様はあなたなのでは?」
姫と呼ばれている少女が、兵士たちの間から突然顔を出した。
「違う。ありえない。俺の何処をどう見れば勇者なんだ」
しつこく俺を勇者呼ばわりする姫。この女は俺の話しを聞いていなかったのか……。
姫の自由過ぎる行動に兵士達も困り果てていた。そんな兵士達を「大丈夫ですから」と後ろに下がらせ、俺の顔を見つめる姫。
……何、この感じ。ちょーう恥ずかしいんですけど。誰かに顔を見つめられるとか初めてだ。しかも、こんな美少女に……。
勘弁してくれ。俺はコミュ障の引きこもりなんだよ……。
そんな事実を表に出さない為にも、必死にこの羞恥プレイに耐える。そして、
「……ふふ。確かにその白い髪に頭の角、血のような赤い瞳は魔族の証ですね」
何が面白いのか小さく笑みを零し、魔族の特徴を挙げていく姫。
今、俺のことで笑ったのか……。
死にたい……マジで死にたい。
穴があったら入りたい……そして、埋めてくれ。
心の底からそう思った事は置いておくとして、あの姫はいったい何を考えているんだ?
そもそも、俺はなぜこんな所で眠っていたんだ……分からない事は山ほどある。
例えば、あの強烈な衝撃波を受けたというのに傷一つない。だけど、着ている服はボロボロだ。
それに、件の勇者は何処に行ったんだ? 事情を知ってそうな姫達に聞いても、俺の事を勇者だと言い出す始末……。
とりあえず、俺の知らない所で、知らない何かに巻き込まれいる。と、言うことだけは理解した……俺は何を言ってるんだ?
このままでは拉致が明かないと思った俺は、現状を把握する為に、姫達から情報を聞き出す事にした。
「……勇者の件は一旦保留にしよう。訳の分からない事が多過ぎて、今の俺には理解出来そうもない。とりあえず現状を把握したい。俺はなぜ、こんな場所に居るんだ?」
「申し訳ありません、うっかりしていました。いくら勇者様とはいえ、何の説明もなく全てを把握する事なんて不可能な話しですよね。今すぐにご説明させて頂きますので――」
と言う姫の言葉を遮り、俺はどうしても気になる事を指摘した。
「ちょっと待ってくれ。その勇者様というのは止めてくれ。嫌な顔を思い出す……」
……俺は勇者じゃないし、気分が悪い。
「では、どのようにお呼びすればよろしいでしょうか? 勇者殿? 勇者さん? まさか、勇者ちゃ――」
「ワイズだッ!! 俺の名前はワイズ。下らない事言ってないで、さっさと話を続けろ」
まったく、何なんだこの人間は……。
姫に弄ばれた俺は、とてつもない辱めを受けた気分になっていた。
そんな俺の姿を面白そうに見つめる姫は、まるで玩具で遊ぶ子供のような笑みを浮かべていた。
このタイプは常にニコニコしているが、心の奥では何を考えているのかまったくわからない末恐ろしいタイプの奴だ……。
「……では、改めましてワイズ様。私はこのグランソード王国の姫、マリアベル・アーリス・フィーネ・ユハエルと申します。あなたをこの世界に召喚したのは私です。気軽にマリアとお呼びください」
先ほどの雰囲気とは打って変わり、気品溢れるお姫様といった感じで自己紹介を始めるマリア。姫は姫でも――悪姫でなければ良いのだが……。
彼女から見え隠れするS気には、少々恐怖を感じてしまう俺が居た。
「どうかされましたか、ワイズ様」
何を感じ取ったのか、ニコニコスマイルでこちらを一瞥するマリア。
「……いや、なんでもない」
「なら良いのですが。おかしなワイズ様」
今後、彼女の前で余計なことを考えるのはやめよう。そう心から誓った。
こんな感じのおふざけムードで物語は進行していきます。
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喜ぶだけで何もお返しは出来ませんが、物語を作っていく上での糧となります。
では、引き続き『召喚された勇者は、実は異世界の魔王だった件。』をお楽しみください。




