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召喚された勇者は、実は異世界の魔王だった件。  作者: 2401
第二章 勇者旅立つ
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第二章 勇者旅立つ8

 ――ベルヘイム、商業区の噴水広場。

 俺とエレナはベンチで休憩していた。

 穏やかな昼下がり、人々は楽しそうに町を散策している。その人々とは正反対で、忙しなく道を往来する馬車の姿もあった。

 そんな姿をぼーっと眺めていた俺は、同じく隣でぼーっとしているエレナに言葉を掛けた。


「ダメだ。結局、アリサのあの字も見つからなかった……」

「こっちもよ……町中探し回ったけど、全然ダメ。手掛かりなし……」


 お互い重い溜息を吐きながら、遠い目をしていた。


 ギルドを出た後、効率を考えて別行動を取っていた俺達。

 俺は昨日と同じで商業区を担当し、エレナは住宅区を探し回っていた。

 結果はこの通り、何も情報を得る事は出来なかった。


「……お腹空いた」

「そうだな」


 ぼそっと呟くエレナに同意する。

 朝から動きっぱなしで、昼食もまだ取っていなかったからな。


「ちょっとあんた、そこの売店で何か買って来なさいよ」


 と言って、目の前にある売店を指さすエレナ。

 その発言に耳を疑った俺は、拒否権を発動した。


「……はあ? 何でお前の分まで俺が買って来なきゃいけないんだよ!」

「良いじゃない、別に。あんたの仕事は私のパシリなんだから」

「誰が、誰のパシリだって……?」

「あんたよ、あんた! この旅に出る前に言ったでしょ。魔王討伐の旅に連れて行ってあげるって……あれ、パシリって意味よ。分かったら、さっさと行きなさい。この愚図ッ!」


 滅茶苦茶な事を言うエレナに対して、返す気力もなかった俺は、渋々売店に向かう事にした。

 こいつを相手にするのは、戦闘よりも面倒くさい。

 ベンチから立ち上がり、無言で売店に向かおうとしていた俺をエレナが止める。


「ちょっと待って。私、ハンバーガーとポテト。あと……ドリンクはあんたに任せるわ」


 と言って、俺を追い払うように「しっ、しっ」と手を払うエレナ。ドリンクは激辛タピオカミルクティーで決まりだな……。

 そう心に決めて、今度こそ少し離れた売店まで歩き出す。




「ありがとうございましたッ!」


 無事に売店で昼食を購入した俺は、昼食の入った手提げ袋を店員から受け取ると、エレナが待っているベンチに向かって歩き出す。

 なんとか無事に買い物をする事が出来た。

 昨日のブティックでの経験が活きているらしい。

 小さな達成感に喜びを感じていると、エレナが妙な二人組の男達に絡まれているのを発見した。

 俺は直ぐにエレナと合流しようと思ったが、男達の出で立ちを確認した瞬間、その気は失せた。


「まさか、こんなところでお目に掛かれるとはな……」


 恐ろしいまでの強運……。

 自分の姿を透明にする魔法『ステルス』を発動し、姿を消してエレナの下へ向かう。

 この『ステルス』という魔法は、自分の存在を消すといっても過言ではない程の性能で、姿だけでなく音や匂い、俺に関する全てのモノを察知出来なくする究極の隠密魔法である。

 その魔法を使ってまで、姿を見られたくなかった相手……それは目の前に居る二人組の男達――昨夜の誘拐未遂犯である。

 一人は貴族風の長身イケメンで、もう一人は眼鏡を掛けた初老の執事。ギルドで得た情報と一致している。だが、俺には別の姿として捉える事が出来た……。

 二人の男達から感じる魔力……間違いなく魔族の魔力だ。大方、変化の魔法で姿を偽っているのだろうが、俺の『千里眼』には通用しない。

 やはり、誘拐犯は魔族だった。だが、なぜ深夜ではないこんな明るい時間に行動しているのか? 確か、奴らは深夜の人が居ない時間を狙って犯行に及んでいた筈。

 その真相を探る為にも、エレナとの会話を盗み聞く必要があるな。

 男達はエレナの座るベンチを取り囲むように立っていたので、俺はそのベンチの横で聞き耳を立てた。


「良いではありませんか、お嬢さん」


 貴族風の男がエレナに話し掛けている。


「しつこいわね……私はここで人を待ってるの。だから、あんた達に構ってる暇はないの。分かったッ?」


 どうやら、エレナをナンパしているようだ。まあ、見た目だけなら麗しい騎士様だからな……見た目だけは。

 だが、これで分かった事がある。これがこいつらの昼間のやり方って訳か。

 貴族の身分とイケメンの甘いマスクを利用した巧妙な誘拐だ。こいつらの誘いに乗ってひょいひょい着いて行ったが最後、魔族の力に勝てる訳がない生娘は誘拐されるしかない。

 卑怯な手だが、実に効率的な作戦だと認めざるを得ない。

 そんな男達の一人である、初老の執事が口を開いた。


「カール様のお誘いを断る方が居るとは、非常に残念な事です。まあ、無理強いは出来ませんので、別の方を探しに行きましょう」

「そうだな……」


 執事の言葉に頷くカールと呼ばれていた貴族の男は、エレナの前から立ち去ろうとする。これはまずい……。


『エ……レナ……聞こえ……るか……ワイズ……だ』


「……な、なに!? 変な声が聞こえるッ!?」


 急に大声を出したエレナに驚き、立ち去ろとしていたカールは足を止め、エレナに向き直る。


「どうしました、お嬢さん!?」

「いや、何か呼ばれた気がして……あんたじゃないわよね?」

「いえ、私ではありませんよ。ケネス、お前じゃないのか?」

「いえいえ、私は何も喋っていませんよ」


 エレナは謎の声に困惑し、それに巻き込まれる形で男達も困惑している。

 困惑するエレナに、再度話し掛ける。


『エレナ、俺だ……ワイズだ。今、お前の心に話し掛けている』


 俺は今、エレナの心に話し掛けている。

 相手の心に語り掛ける魔法『テレパシー』を使って。

 この魔法は自分の思った言葉を口に出さずに相手へ伝える事が出来る魔法だ。相手も『テレパシー』が使えれば、心の中で会話が出来てしまうという裏技もある。

 勿論、エレナは使えないので俺からの一方通行で終わってしまうがな。


「ワ、ワイズッ!? あんた今どこに――」


 と、叫びそうになるエレナにストップを掛ける。


『静かにしろッ! 俺の声はお前にしか聞こえていない。お前が勝手に喋ると、目の前の誘拐犯達に怪しまれるだろ』


「ゆうか……んッ!!」


 俺の言葉を聞いたエレナは『誘拐』というワードを叫びそうになるが、自分の口を両手で覆い、どうにかそれを押し込める事に成功したらしい。誘拐犯って気付いてなかったのかよ……。

 アホなエレナは置いておいて、さらに、状況は悪化したみたいだ。

 男達はエレナの様子を不審に思ったようで、二人でこそこそ何かを話している。

 さすがに俺の存在に気付くという事はないだろうが、何が起こるか分からない以上、ここは気を引き締めて行こう。


『いいか、落ち着いて聞いてくれ。俺にはその誘拐犯達を捕まえる策がある。今からその作戦を説明するから、お前は黙って俺の指示に従ってくれ。いいな……?』


 俺の言葉に不満そうな表情を浮かべるエレナを無視して話を続ける。


『お前は今からそいつらに着いて行ってもらう。俺はその後を追うから、そのまま拠点にしているであろう場所まで案内してもらい、油断しているところを一網打尽……誘拐された人達を救って事件は解決という寸法だ』


 もし、俺の作戦を受け入れなかったら。という不安もあったが、どうやら取り越し苦労だったようだ。何だかんだでプライドより人命を優先するあたり、こいつは信用できる奴だ。

 エレナは作戦通り、誘拐犯達にアプローチを仕掛ける。


「……ちょっといいかしら」


 二人で何かを話していた誘拐犯達は身構えるようにエレナに向き直る。


「な、何でしょうか……お嬢さん?」


 明らかに動揺しているカール。

 その様子を見ていたケネスという執事は「おほん」と咳払いをし、


「……申し訳ありませんが、我々少々用事が出来まして。これにて失礼致します」


 と、軽く会釈してカールに「行きましょう」と声を掛けるケネス。

 まずいな……ケネスというあの執事、何かに感付いたみたいだ。

 ここから立ち去ろうとする二人を止める手段を考えていた時、エレナが動いた。


「ちょっと待って……」


 そう声を掛けて、立ち去ろうとするカールの左肩に手を置いたエレナ。

 カールはビクッと肩を震わせ、振り向いた。


「お、お嬢さん……わ、我々は……急いでるんで……」


 声から緊張感が伝わって来る。

 エレナの次の言葉を固唾を呑んで待っている様子のカール。


「気が変わったの……あんた達に着いて行ってあげるわ!」

「いや、ですから我々は急いで――」


 カールが断りを入れようとした時、ケネスが割って入った。


「本当ですかッ! それは良かったです。ちょっと、カール様とお話がありますので、こちらでお待ちください」


 そう言って、二人はエレナと少し距離を取り、話し合いを始める。

 俺はすかさず、二人の話しを盗み聞く為近付く。


「何で連れて行くんだよッ!?」


 と、小さな声で疑問を口にするカール。

 それに対して、冷静に返すケネス。

 

「相手は只の人間です。町中ではギルドの目があり危険ですが、一歩外に出れば我々の思うがまま……」

「なるほど、流石ケネスだな……」

「分かりましたら、怪しまれない内に戻るとしましょうかねぇ~」


 二人はゲスい話し合いを終えると、エレナの下へ戻って行く。相手が勇者モドキの騎士とも知らずに……。

 エレナと合流した誘拐犯達は、住宅区のある西通りへ向かって歩き始めた。


「まあ、勇者モドキの魔王だって付いてるんだから、相手には悪いがご愁傷様ってところだな……」


 そんな軽口を叩きながら、エレナ達の後を追う。

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