第二章 勇者旅立つ4
――ベルヘイム、商業区の中心にある巨大な噴水。
俺はその噴水周りに設置されているベンチに腰掛け、行き交う人々の様子を眺めていた。
「……はぁ~。一人で聞き込みとか、俺にはハードルが高過ぎるだろ」
エレナと別れた後、言われた通り聞き込みを始めた。
だが、やはり俺にはハードルが高ったみたいだ……。
道行く人々に声を掛けようとするが、どう声を掛けたら良いモノか分からず、まったく聞き込みにならなかった。
そうこうしている内に自信を無くし、現在に至る……。
「こんな事してる場合じゃないんだけどな……」
俺にはどうしても気になる事があった。
それは、アリサの魔族疑惑である……。
一瞬の出来事とはいえ、俺の『千里眼』が捉えた彼女の姿は魔族だった気がする。
もし、アリサが魔王に与する者なら、このベルヘイムで何か良からぬ事を企んでいるに違いない。まったくそうは見えなかったのも、油断を誘う演技だったと考えれば合点が行く。
とにかくアリサを探し出し、その真意を確かめる。これが最重要事項だろう。
エレナには悪いが、お前の言う通り勝手に探偵ごっこを始めさせてもらうぞ……。
「確かアリサは、ギルドに所属していると言っていたな」
だったら、その冒険者ギルドに居る可能性が高い。
そう考えた俺は、ギルドに向かう為にベンチから体を起こそうとする。だが、直ぐにベンチに座り直した。
よくよく考えると、ギルドの場所をアリサから聞いていなかったので、何処に向かえば良いか分からなかったのだ。
またしても、途方に暮れる事となった俺……。
「……あれ? ワイズさん」
と、ベンチで項垂れている俺に声を掛ける者が居た。この声は……まさか!
聞き覚えのある声に、ふと顔を上げる。
「……あ、アリサッ!」
突然の出来事に思わず大きな声を出してしまう。
その声にびっくりしたアリサは「うわぁ!」と小さな悲鳴を漏らして、体を後ろにのけ反らせた。
「……も~う、突然大きな声を出さないでくださいよ~」
「すまん。急に声を掛けられたもんだから、びっくりしてついな」
「そうだったんですか。じゃあ、私のせいでもある訳ですから、おあいこですね」
そう言って微笑むアリサ。相変わらず可愛い奴だな……。
アリサの微笑む姿につい見惚れてしまう。だが、そんな自分に喝を入れる。
馬鹿野郎! 今は彼女の愛らしさに骨抜きにされている場合ではない。
アリサを見つけたのだから、魔族について聞かなければ。
そう思っていたのだが、俺が話すよりも先にアリサが口を開いた。
「それより、どうしてお一人でこんな場所に居るんですか?」
「いや、ちょっと休憩中で……」
「そうなんですか……そういえば、エレナさんはどうしたんですか?」
「あいつなら住宅区の聞き込みをしている。俺は商業区担当だ」
まあ、俺は何の成果も上げられなかったがな。エレナ、すまん……。
だが、ここで必ず挽回して見せるからな。
「聞き込みって、もしかして私が追っている事件についてですか?」
「まあ、そんな所だ。それより――」
と、俺が話しを変えようとした時、
「それじゃあ、協力しませんか!!」
そう叫んで、俺の手を取るアリサ。
「……はぃ?」
何だこれ……どうなっているんだ……?。
アリサの言っている意味がわからない。
それに、何で俺はアリサに両手を握られているんだ……?
嬉しさと恥ずかしさで、心臓の鼓動が早くなって行くのを感じた。
そんな俺の気持ちを知らないアリサは、握った両手をさらに強く握りしめて叫んだ。
「せっかく同じ事件を調べてるんですから、ここは協力しましょう!」
もう限界だ……!! コミュ障にはこのレベルはまだ早い!!
「……お、おう……分かった……分かったから……こ、この手を……放してくれ…………」
恥ずかしさ全開で握られた手をアリサに向ける俺。
その向けられた手を確認するアリサ。すると、
「……すすすす、すみませぇえんッ!! 私ったら、な、なんて大胆な……」
自分が何をしていたのかに気づいたアリサは、大慌てで握った手を離すと、俺から距離を取るように勢い良く後ろに下がった。
握られていた手にはまだ温もりが残っている。それを感じると、赤くなっているであろう顔が、さらに赤味を増して行くような気がした。
お互い真っ赤な顔を隠すように、そっぽを向いている。
そんな俺達の様子を見ていたらしい町の人々が、好き放題言葉を掛けて来る。
「ヒュー、ヒュー」「初々しいね!」「お似合いだよ!」「ナイスですね!」
一つおかしな奴があった気がするが、そんな事はどうでもいい。
俺はすぐさまベンチから立ち上がり、この周辺を確認する。
辺りは人だらけ。ここに居るとまともに話しも出来なさそうだ。
アリサも人の熱気にやられてふらふらだし……。
「……きゅー」
と、鳴いて目を回している。
「……仕方ない」
目を回しているアリサの手を取り、
「……ふぇ? な、何ですか?」
「走るぞ……!」
アリサを連れて、全速力でこの場から離脱した。




