第二章 勇者旅立つ2
ベルヘイムに向かう道中、魔物に襲われていた少女、アリサを助けた俺達。
何だかんだあって、アリサも一緒にベルヘイムへ向かう事に。
イレギュラーとは言え、ベルヘイムの内情を知っている人間が近くに居るのだから、これは情報を集めるまたとないチャンスだ。エレナは、まったく教えてくれないからな。
「アリサはベルヘイム出身なのか?」
「いえ、違います。ベルヘイムにはつい最近来たばかりなんです」
「そうなのか……」
彼女の言う通りなら、ベルヘイムについては聞いても無駄だろう。さっそく俺の目論見がご破算となった。
なら、さっき語っていた事件についてはどうだろうか。
この近辺で起こっている魔族絡みの事件を探れば、なぜ魔族が活発化しているのか、その原因を突き止める事が出来るかもしれない。
「それじゃあ、お前が調べているという事件について、詳しく聞かせてくれないか」
「事件についてですか……別に構いませんが、どうしてそんな事を聞くんですか?」
「さっきも言ったと思うが、俺は勇者だ。ベルヘイムの事件も、魔王討伐の一環として解決する義務がある」
本当は面倒くさいが、ここはマリアの居る王都からも距離が近い。解決出来るなら、それに越した事はない……って、何であいつの名前が出て来るんだッ! 別にあいつは関係無い……事も無いが……ああ、面倒くさい!
とにかく、この事件を解決する! 今はその事だけを考えよう。
「あの……ワイズさん? 聞いてます?」
「ああ、悪い。ちょっと考え事をしていた」
「そっちが聞いて来たのに、ちゃんと聞いてないなんて酷いです!」
そう言って、俺の肩をポカポカ叩いて来るアリサ。何、この可愛い妖精……一家に一台は欲しい。
そんな馬鹿な事を言っていると、馬車が急に大きく縦に揺れ出した。
「うぉおお! 何だッ!?」
「きゃッ!」
大きな衝撃にバランスを崩した俺は、アリサの居る方向へ倒れ込んでしまう。そのアリサも態勢を崩したのか、倒れて来た俺の頭を抱きかかえながら床に倒れ込む。
その瞬間、俺の顔は柔らかいモノに包まれた。何、この感触……天国だぁ~。
その至極の感触を楽しんでいる時、邪魔者が現れた。
「ごめん、車輪に岩がぶつかったみたいで……あんた達もだいじょ――ブッ!! 何やってるのよ、あんた達ッ!!!!」
馬車の揺れが収まり、こちらの様子を確認しに来たらしいエレナが突然騒ぎ出す。
何だよ、うるさいな~。こっちは天国を満喫してるって言うのに……。
喧しいエレナを黙らせようと体を起こすと、
「……………………」
「……へぇ?」
恥ずかしそうに顔を赤らめるアリサと目が合った。こんな事、前にもあったけど……こんなもん、なんぼあっても困りませんからね。By牛乳少年。
「すまん、悪気はなかったんだ! この通り、許してくれ!!」
アリサから直ぐに離れ、土下座で許しを請う。あの幸福に見合う代償がこれしか思いつかなかった。
「…………」
俺の最上級を以てしても許してくれないというのか。土下座の態勢では表情を窺う事は出来ないが、お許しの言葉が無い事がそれを物語っていた。
どうしたら許してもらえるのか。その事で頭が爆発しそうな時だった。
「……か、顔を……上げてくだ……さい」
震える声で俺にお言葉を掛けて下さるアリサ様。
そのお言葉に甘えて、俺はそっとアリサ様のご尊顔を拝する。
「私なら……だ、大丈夫……ですから……」
倒れていた状態から起き上がっていたアリサだが、顔が真っ赤なのは変わっていなかった。
その姿を見ていた俺は、妙な感覚を覚えた。
「……ん、何だ?」
アリサが一瞬、別の誰かに変わったような気がしたのだ。不思議に思った俺は、彼女をもう一度よく見た。だが、気のせいだと直ぐに思い直した。
何度見てもアリサはアリサだった……。
「あ、あの~、そんなに見つめられると……は、恥ずかしいんですけど…………」
「ああ、すまん!!」
と、彼女に指摘され、慌てて顔を手で覆おうとした時、ある筈の物が無いことに気が付いた。
……眼鏡が無い。どうやら、馬車が揺れた時に落としてしまったらしい。
だが、幸いな事にアリサは気が動転していて、俺が魔族である事に気づいていない様子。指摘してこないのが何よりの証拠だ。
アリサが平常心を取り戻す前に眼鏡を見つけなければ。と、荷台の隅々に視線を送る。だが、それらしき物は見つからない。
そんな俺の様子を見ていたエレナが、こっそり眼鏡を手渡して来た。
「……これ、落ちてたわよ。気を付けなさいよね。あんたが魔族だってばれると、こっちも迷惑なんだから」
「す、すまん……」
そう耳打ちして来るエレナに、謝る事しかできなかった俺。だが、よくよく考えると、魔族だ魔王だ騒いでたこいつに言われる筋合いは無い……とも思った。面倒だから言わないけどな。
エレナに説教された事にあまり納得がいかなかったが、あいつのおかげで助かった事は事実なので、ここは素直に眼鏡を受け取り、その眼鏡を掛け直した。
「……わかれば良いのよ。さあ、町まであと少し。アリサも落ち着いたみたいだし出発するわよ」
エレナの言う通り、冷静さを取り戻していたアリサは、荷台の壁に背中を預けて座っていた。
俺は気まずかったので、アリサとは少し距離を置いた場所に腰を下ろした。




