3-26 俺とフリーマン達
新しいカードが増えたけど、俺がカードを強化したり進化させるペースというのは基本的に変わらない。
例えば『ヒューマン・メイジ』を召喚しようと、そいつらが持っている魔力でカードを強化という都合の良い展開にはならない。
あくまで、俺の魔力を使わないと駄目なのだ。
ゲームとかではMPポーションのようなアイテムが存在し、ポーションがぶ飲みでカードを強化する事ができる。
しかし、この世界でそれは不可能である。
魔力回復アイテムはあるが、それはあくまで補助的な、俺のものではない魔力なのだ。魔力には個人ごとの波長があり、アイテムで回復させた魔力は俺のものになりきっておらず、馴染むまでに時間がかかる。
結局、魔力回復にかかる時間はそんなに変わらないというオチが付いた。
無意味ではないが、効率が悪すぎる。
逆に大事なのが魔力消費を抑えるアイテムや魔力の回復速度を上昇させるアイテムである。
『魔法使いの杖』や『魔晶石』がこれに該当し、こういった補助アイテムを装備する事で俺は魔力をやりくりしている。
あとは≪マテリアライズ≫や≪召喚≫をしっぱなしにすることで経験値を稼ぐなど、計画的に魔力を運用している。
何が言いたいかというと、基本的に俺の魔力はカツカツであり、現状でできる努力を惜しまずした上で、やりたい事や、やるべき事の取捨選択をしているという事だ。
余裕など無いのである。
「だから、無理」
「そこをなんとか! お願いします!!」
終たちが必死になって頭を下げるけど、何でもかんでもお願いを聞き入れる気は無いのだよ。
終らフリーマン達が俺の家に来てしばらく時が経った。
夏も一番暑い時期になり、氷のローテーションが皆の関心事一位になる時期だ。特に寝苦しい夜は氷が欠かせない。
近くに水を引いたりして少しでも暑さを和らげようとする努力はするけど、寝る時に氷を置かないと気分的に落ち着かないんだ。
そうやって暑さ対策をしている俺に、終達がお願い事をしてきた。
「風呂に入りたいです、ご主人!」
「風呂は日本人の心です、創様!」
「一生のお願いです! 用意して頂ければ、それに見合った働きをしてみせます!」
「いや、風呂はあるんだけどな?」
「五右衛門風呂ではなく、もっと、ちゃんとした風呂を作りたいのです!」
風呂の強化・進化をお願いされたのだ。
一応、風呂はちゃんとある。
デカい木の桶にお湯を注ぐだけの簡単なものだが、お湯を数枚カード化してあるので、特に労力を考えなくても気軽に入れる。
この木の桶はカード化していない、ただの木の桶である。元は『水の入った小樽』だが、大きくなるように強化しまくったのだ。
掃除は大変だが、カードの枠はもっと大事だと思う。
それに、掃除はゴブリンにやらせているから気にならないのだな。俺本人は大変ではない。
石鹸やらなんやらも作ったし、俺は不満など無い。
ただ、終たちはユニットバスのような、足を伸ばせる風呂が良いと言いだしたのだ。面倒なことに。
「んー。とは言ってもなぁ。
働くと言っても、何をするのさ?」
彼らは自由にしても良いと思ったわけだが、俺に付いてきた。
で、俺はそれを許可した。
最初の関係は恩などはあれど対等な友人のようなもののはずだったが、いつの間にか主従関係である。解せぬ。
彼らは彼らで自分の考えがあって動く。
俺の召喚モンスターではないから。
彼らは俺の思い通りにはならず面倒だが、それはそれで、彼らとの会話を楽しんでいる俺がいる。
悪くない。
そんな風に思うよ。
しばらくは引きこもり生活だけど、それは彼らとの共同生活でもある。
たぶん、暇だとかやる事がないとか、そんな事を思うことはないはずだ。