3-24 敵中突破⑥
俺が追加で召喚を行うと、連中から悲鳴のような声が上がった。
「話が違う! あいつは獣系の召喚術士じゃなかったのかよ!」
「狼狽えるな! あれだけの規模の召喚魔法だ、もう奴も限界のはず!」
「畜生が!!」
お。いい情報が混じっていたな。
召喚魔法とか、わりと一般的なレベルで広まっているのか。
で、術士ごとに得意とする系統がある。
「何らかのアイテムだ! さっき、何か紙切れを持っていた! それが術の起点だ! 奪え!!」
追加の召喚を行った甲斐があった。
俺は思わぬ幸運に頬を緩めるが、すぐに気を引き締め、指示を下す。
「目標、奥にいる召喚術士! 全員、行け!!」
一般的なチンピラ相手であれば、夏鈴一人でも問題にはならない。
それよりも敵の本丸、召喚術士を落とす方が先決だ。
俺は『ハイゴブリン鋼鉄剣士部隊』の5人全員を召喚術士に向けて動かした。
「な! くっ、フリーマン!守れ!!」
俺が追加戦力を全て召喚術士に向けたのが意外だったのか、それとも他に何かあったのか。
敵は召喚したフリーマンの運用に迷い、中途半端な命令を下す。
残念。
フリーマンは草原大狼たちが抑えているから動かせないんだな。
フリーマンは河原という足場の悪さをものともせず、巧みに立ち回り草原大狼の攻撃を凌いでいるが、余裕が有るわけではないのだ。下手に攻撃しようとせず、防御に徹して時間を稼いでいる。
下手に戻ろうと動けば、背中からブチ殺すだけ。
数的な優位、自由に動けるのはチンピラだけだったのだから、指示を出すとすればそっちにした方がまだマシだったぞ。
チンピラはフリーマンが動くだろうと、召喚術士へのフォローをしない。俺を殺してしまおうと動いている。
フリーマンはオーディンたち草原大狼が抑えているから。
結果、召喚術士を守る奴がいない。
「馬鹿ど――」
鋼鉄で身を固めたハイゴブリンの剣が一閃し、首を刎ねられた召喚術士が最初に死ぬ。
「待ってくれ! 俺たちに戦う意思はない! 降参する、投降を認めて欲しい!!」
「んー。まぁ、いいか。オーディン、みんな、彼らへの攻撃は中断してくれ」
「恩に着る」
そうなるとフリーマンが解放され、俺と敵対する意思を失い、降伏を宣言した。
チンピラはともかく、召喚モンスターだったフリーマンの扱いはどういうものか。
ほんの少し迷ったけど、フリーマンは見逃すことにした。
そうやってフリーマンが見逃されると、チンピラたちの空気も弛緩し、もう戦闘が終わったかのような空気になるが。
俺は無言で目配せし、仲間たちに指示を出す。
「え? ぐぎゃっ!」
「待ってくれ、もう終わったんじゃ――」
「助けてくれ!」
「俺たちが悪かった、すまん! ヤスが最初にアンタらを襲ったのが駄目だったんだよな、犯人はヤス――」
チンピラ諸氏は消毒だ。慈悲は無い。
命乞いをしていたが聞き入れる気にはならず、問答無用で全滅だ。
『ヒューマン・サモナー』:ヒューマン:☆☆☆☆:やや大:1ヶ月
ヒューマン・サモナーを召喚する。サモナーとはモンスターを召喚し、使役する者である。一個にして群、それがサモナーだ。
こうして俺は敵中から脱出し、追手も殲滅し、船を手に入れ我が家に帰るのだった。
……寒いし、疲れた。
帰ったら、しばらくグータラしよう。