3-23 敵中突破⑤/全力戦闘
それにしても、召喚されるのが人間ばかりというのも珍しい。
普通、召喚されるのは人間よりもモンスターの方が多いと思うのだが。
それに、なんで金属製の装備で身を固めているんだ?
俺のカード能力と同じく、何らかの方法で作ったんだろうか。それとも、金属加工で有名な関市が近いので、そちらで鎧とか作ってもらったのだろうか。
個人的な感想だが、非常に動きにくそうである。
「凛音。『ファイアジャベリン』」
「『マナボルト』!」
相手が金属鎧を着ているなら、動きが遅くなるのは常識である。
ましてやここは河原という、足場の悪い地形。
ゴロゴロと転がる石の上では思うように動けまい。
俺は凛音に声をかけ、先制攻撃だとばかりに鎧姿の剣士と、その後ろに隠れる召喚者を貫通力のある『ファイアジャベリン』で狙った。
凛音も俺の意図を察し、同じく召喚者を狙う。
この手の召喚魔法のお約束、術者が死ねば召喚されたモンスターがまとめて消えるという展開を狙ったのだ。
「アイン! ツヴァイ!」
ただ、この手のお約束を狙うのはよくある事らしく、すぐさま反応が返ってくる。
召喚者は2体の剣士を使い、俺たちの魔法を迎え撃った。
俺のファイアジャベリンは剣士1を貫き、殺したものの、なぜかそこで効果が終了。召喚者に届くことは無く、かき消された。
凛音のマナボルトも、剣士2に阻まれ、召喚者はダメージ無し。非常に厄介な展開だ。
「乱戦に持ち込め! これ以上、魔法を使わせるな!」
しかもチンピラや残りの剣士を使い、こちらの魔法を封じにかかる。
確かに、乱戦になると魔法使いは弱い。味方に当てることを恐れ、魔法が使いにくくなるからだ。
「オーディン! トール! フレイ! ルー! 剣士を迎え撃て!
夏鈴、莉奈はいつも通り!
凛音、あの召喚魔法使いを常に狙い続けろ!」
こちらはこちらで、迎撃態勢をとりつつ、凛音への指示で相手にプレッシャーをかける。
夏鈴は俺の護衛で莉奈は遊撃。草原大狼たちが剣士を押さえてしまえば凛音が召喚者を狙い続けられるので、相手も気が気でないだろう。
これで相手はチンピラ数名が浮いた戦力になる訳だが、そちらの抑えに追加戦力を召喚する。
「≪召喚≫『ハイゴブリン鋼鉄剣士部隊』」
数で互角にしたはずが、剣士の召喚で押される形になった。
質で確実に勝てるとは思うけど、さっき魔法を途中で止められたので、何があるか分からなくなった。
ここで出し惜しみをして負けたら、力を隠す意味もない。
負ければ殺されるかもしれないのだ。全力全開とまではいかないけど、隠していた力の一端を見せるぐらいは我慢して受け入れるよ。
『ハイゴブリン鋼鉄剣士部隊』は『ゴブリン鉄剣部隊』の2段階進化先だ。これで数と質の両方で相手を上回った、はず。
なお、ここで全力を出し切らないのは、自分の中に余力を作り、対応力を高めるためだ。
手を抜いているとかではなく、相手の行動次第では更に戦力を追加するし、見せていない魔法だって使う気でいる。
カードの使用限度があるからね。
余力は残しておかないとまずいのだ。




