3-22 敵中突破④/召喚魔法
俺の方が先に川から出ることに成功した。
俺とヤクザたちの距離は30mほどであり、はっきり言って余裕はあんまりない。
先に川から出たアドバンテージはあったけど、余裕を見せればそれで終わり。距離を維持しつつ、まずは身を隠せる所まで走る。
「逃げるんじゃねぇーー!!」
チンピラが何か言っているが、無視をする。わざわざ言い返す気は無い。
幸い、川の近くには竹林があった。
河原の石の上を、転ばないように慎重に走る。
「ぐおっ!?」
後ろでは誰かが転んだようだが、隠れることを優先しているので振り返らない。
距離は足音で測るが、まだまだ追いつかれないだろうと思う。
ちょっとだけ距離を詰められつつあるような気もするけど、焦ったらダメだ。足場が悪いから転びかねない。
そうやって竹林まで逃げ込み、俺は周囲、全く関係ない連中から見えにくい奥まで入り込んだ。
これでカードを使ってもバレにくいだろう。
何かをした事は分かるし、結果としてモンスターを召喚したと分かっても、カードを使っていることまでは見えないはずだ。
追いかけている連中は距離が近いしバレるかもしれないけど、こいつらは口封じに全滅させるから関係ない。
「≪召喚≫『草原大狼』」
俺は草原大狼たちを連続で召喚する。
今日は『マナボルト』『川魚の夕餉(毒入り)』『ヒューマン・スレイブ』『浮き板』を使っているが、枠にはまだ余裕が有る。
続けて夏鈴たちも召喚しなおし、一先ずの戦力を整えた。
ここまでは今までも見せてきた戦力なので、見られても問題ない。
これならまず負けない、そう思って迎え撃とうとした矢先。
相手も戦力を整えだした。
「≪召喚≫『バトル・フリーマン』」
追いかけてきた連中の一人が杖を片手に魔法を使うと、魔法陣が現れ、そこから剣と鎧で武装した人間の剣士を呼び出した。
それは1度だけではなく、連続して5回。
こいつらは5人の屈強な戦力を一瞬で用意しやがった。
そう、きたか。
相手はカードを使った様子が無いけど。
何らかのスキル・アイテム・ギフト・タレント・チートにより、戦闘要員を魔法で召喚した。
これが、少数で俺を追いかけた自信の源。
召喚魔法。
俺のような奴相手に使っていい戦力じゃないだろ。
思わず悪態を吐きたくなるが、これも因果か因業か。
相手の本気度の高さを見誤った俺は、川の水で冷えた体をぶるりと震わせた。