3-21 敵中突破③
木曽川の流れが思った以上にヤバい。
浮き板の上でバランスを調整し、徐々に徐々に美濃へと寄っていこうとするのだが、それがなかなか上手くいかない。
流れる自分がひっくり返らないようにするので精一杯だった。
そして。
「上手く寄せろ! もっと前だ!!」
「逃がすな! ぶっ殺せ!!」
堀井組が船で俺を追ってきたので、前進を優先しているというのもある。
けっこう面倒くさい状況だった。
堀井組も、川島には拠点を持っていたようである。
あの宿の主人が言っていたが、モヒカン以外のチンピラも所属しているようで、船に乗っているのは全員普通の髪型だ。
チンピラとは思うけど、堀井組とはすぐに結び付かない。
船で追われているものの、この状況はそこそこ美味しい。
可能ならばこのまま美濃へと逃げ込み、あいつらを始末した上で船を回収できれば万々歳だ。
俺に造船技術は無いので、あいつらの乗っている川船、10人も乗れる細長いのが手に入るとなれば、悪くはない。手間はかかるが、可能ならばかなり美味しいと思うのだ。
そうなると早く陸に上がっておきたいけど、それが難しくて手間取っている。
ただ倒すだけなら、後ろに向かって『マナボルト』の一発でも打ち込んでやればそれで終わるんだけどね。
どうしても船を手に入れたいから苦労するんだ。
堀井組よりも、モラルと物欲が最大の敵だね。
何かに拘って生きようとすると、どうしても生き辛くなる。
もっとも、自分の事以外は何も考えずケダモノの様に生きるのは、最悪であり醜悪なので絶対にやらないけど。
軽く現実逃避しながら木曽川を流れていると、運良く浅い所が途中にあった。
これなら立ち上がることも可能だと思い、俺は浮き板から体を降ろして川底に足を付ける。
体の半分以上、胸よりちょっとしたぐらいまで川の流れに押されているのでバランスが取りにくいが、流れに対して体を横に向けてなんとか歩ける程度になる。
浮き板は後でカードに戻せばいいだけだからそのまま川に流し、俺はゆっくりと川岸へと歩く。
「お前ら、急げ!」
「こっちも船を降りるぞ!」
「サブ! てめぇは船を岸に着けておけ!」
そして俺が美濃に歩いて行けると分かると、堀井組の側も陸に上がろうとする。
船は何処かに行ってしまわないようで、このあたりに残してくれるようだ。助かるね。
では逃亡生活、最後の仕上げだ。
あいつらを始末して、船を奪う。
50人いて殺せなかった俺に10人で挑むような連中だ。
もしかしたらもあり得るので、油断だけはしないように心がけよう。