3-20 敵中突破②
宿の従業員の反応。
ここは敵地という前提で動くつもりだけど、対応をハードにするかソフトにするかはまだ微妙なライン。
思いっきりバトルモードで動くか、それともまだ話し合いの余地があるかは迷うところ。
宿の主人が慕われているだけって可能性はまだゼロではなく、あんまり無関係な人にまで暴力を振るいたくない。
「先ほどご主人に襲われました。包丁で殺されそうになったんです。
これはまだ正当防衛の範囲ですけどね、いま、あなた方が襲ってくるようでしたら容赦はできません」
「死ねぇぇーー!!」
そんなふうに考えていたけど、相手はすでに覚悟完了。容赦しないと言ったにも拘わらず、同じく包丁で襲い掛かってきた。
「『マナボルト』」
「げふっ!」
だけどその攻撃は凛音の魔法で潰される。
俺の後ろから現れた彼女の魔法により胸を貫かれ、即死した。
襲い掛かってきたのだから、殺さず倒す必要もない。
カード化はこの場でしたくないから諦める。勿体ないけどまぁ良いかと割り切る。
「川島町の警察に一応届け出を……しないで各務原市まで行くか」
事が大きくなったので、警察への届け出は必要だろう。主に嘘八百を事実として広められない為にも、公的機関への届け出は大事だと思う。
ただ、川島町でそれをするのは自殺行為だ。
変に足止めを食らい、無駄に時間を使わされればさらに面倒な事になる。
ここは川島町での説明を諦め、お隣の各務ヶ原市で身の潔白を訴えた方が良い。
俺は方針を固めると、草原大狼たちを召喚する、事はせず、そのまま自分の足で美濃の国側を目指した。
単純に川を渡るだけなら橋を使うべきだろうけど、そっちにはすでに堀井組の連中が張っているかも知れないので、あえて橋の架かっていない場所に移動する。
川島から美濃側に架かっている橋の長さは300m以上。
しかし、川幅に限定すれば、天気次第だが200mぐらいで済む。
今日の川幅は運良く狭いようで、その200mぐらいであった。
流れは急だが、頑張れば渡れない事もない。
命綱というか、最低限の備えがいると思うけど。
あと、必死こいて泳ぎ渡った先で待ち伏せされたら嫌なので、最初にするのは川を渡る事ではない。
「≪マテリアライズ≫『浮き板』」
急流下りである。
俺は『浮き板』を用意すると、川の流れに身を任せ、下流へと流れていくことにした。
三人娘はいったん送還。
まぁ、相手もこんな事をするとは思っていないだろうし。護衛は必要ないだろう。
いざとなれば再召喚するだけで、リキャストタイムは当然のように終わっているから問題ないはず。
「水、冷たっ! 体が冷える!!」
そういえば、ボディボードとかって専用の服を着ていたような気がする。
次回などあってほしくは無いけど、今度はダイビングスーツ的な服を用意しよう。
俺は木曽川に翻弄されつつ、そんな事を考えていた。