3-15 マンハント④/アサシン
「――と、いう事があったんですよ。
怖いですよね、ヤクザ者って」
「あらあら。それは大変でしたね。
しかしここは川島町。尾張のチンピラなんぞ、暴れるようなら私どもが許しませんからな。安心してお休み下さい」
協力者として選んだのは、「美濃派」のお宿。
協力者と言ったけど、やったのはヤクザとの顛末を一部語ってみただけ。
先日のマンハントは教えてあげない。ただ、しつこく付きまとわれているといった形を取る。
宿の人もそこは事前情報があったので、お互い笑顔で雑談しただけといったノリで応じただけ。
面倒くさいけど、そうじゃないと、お互いに都合が悪い。
明確な協力関係になるとね、川島町の人が尾張者といざこざを起こしたという話になっちゃうわけだ。
ただ、こうしておけば流民と尾張者のいざこざに宿は巻込まれただけと言い張れる。
話は多少聞いていたから備えていたけど「まさかここまでしてくるとは思わず……」と言えないのは拙いんだよ。
どこに耳があるか分からない。建前は、大事です。
夜中になると、草原大狼のオーディンが不審者の気配を捉えた。
多分も何も、俺を狙っているようだ。俺も意識を集中して探ってみるけど、音を立てないように慎重に動いてはいるが、動きそのものに迷いがない。
宿の誰かから情報を貰っているね、これ。
美濃派の宿を選んだけど、人間関係が複雑なここでは組織が一枚岩とは言えず、だいたい裏切り者が混じっている。
こういう場所だから、できれば来たくなかったんだよね。
この人たちは俺とは別の世界を生きているよ。
付け加えると、町に入った段階で尾張派の人が俺の情報を堀井組にリークしていると思われる。
逆に堀井組から情報を貰ってもいるだろうね。
商人って奴が情報の大切さを理解してないはずがないし。
俺なら遠距離で宿ごと殺しにかかるけど、この不審者はそこまでの権限を与えられていないようだ。
部屋に入り、寝ているところを刃物でブスリ。もしくは拉致って人質か。ロープは持っていないけど、可能性としては後者が高いかな? それを狙っていると思われる。
不審者ではなく、不埒者と呼んでやろう。拉致させないって意味で。
部屋は二つ取ってあり、俺一人と三人娘という組み合わせ。
ただ、俺が草原大狼を護衛として連れているのは宿の人にも言っていない。夜中になってから召喚したし。
最初から宿の人を信用してないからね。当たり前。
完全に信用できるようであれば、もっと別な方法も採れたんだろうけど、それは高望みしすぎだ。
俺にできる事は。
「ウェルカム、地獄の一丁目」
「な!? ひ、ヒィッ!!」
オーディンと正面から顔を合わせた犠牲者を煽る事ぐらい。
足音を殺せるほど繊細だけど、やっぱりゴツい体のモヒカンさんは、こうして俺のカードとなったのでした。
『ヒューマン・アサシン』:ヒューマン:☆☆:やや小:1日
ヒューマン・アサシンを1体召喚する。アサシンとは、麻薬を吸う者が語源である。彼らは死を恐れず、毒の扱いに長ける。
麻薬漬けにしてから送り込まれたっぽいね。哀れだ。