3-13 マンハント②/ハンティングリザルト
マンハントは手段だ。
相手を殺すことでこちらの戦闘能力を誇示し、脅威と思わせる。
そうして相手を交渉の場に引っ張り出すのが目的になる。
交渉の場に引っ張り出すと言っても、手出し無用と思われればそれで良い。
こちらに魔法使いがいるというのは角刈りヤクザの件で広まっているはずなので、グダグダと手を出せば損が嵩み、最終的に破滅すると理解させられれば良いのだ。
俺たちは逃げるばかりじゃないと、身を以て分からせるのだ。
ほら、魔法使いって、身軽であっても重武装のテロリストになれるからさ。敵対するのは得策じゃないと、普通は気が付くだろう。
俺たちを捕まえれば凛音を従えられるとか甘いことを考えるかもしれないけど、それが簡単じゃない事なんて子供でも分かる。
それでも手を伸ばすのが欲深い人間なんだけど、被害が大きくなればそうも言えなくなるはずだ。
問題は、怖いのは、相手の組織が大きいことだけど。
組織が大きいという事は、下手をすると組織の上の方が無能でも、システムが組織を維持することがままある。
馬鹿な上司がたくさんいても、大きな図体が組織を生かすのだ。
システム通り動けば、現場の人間の働きだけでも簡単には潰れない。
つまり、馬鹿で現場を知らない上司が、部下を無駄に消耗させ続ける可能性は否定しきれない。
また、大きな組織が一個人というかごくごく小さな集団に良いようにされて引き下がれなくなるという可能性もある。
変にプライドをこじらせて、ビッグマウスを引っ込められなくなるというわけだ。引き下がってしまうと集団が崩壊するとか、そういう話。
この場合、組織全体が崩壊するのではなく、一部署だけが崩壊すると言う事になる。
権力争いとか派閥闘争とか、堀井組内部の戦いに俺たちが利用されるわけだ。
これについては、組織の別派閥が俺たちを上手く使いこなし、場を収めることも期待できるけど。
ただ、俺たちを利用し終えた連中が、最後の仕上げに俺たちを排除する可能性も否定しきれないので、その警戒を怠るわけにはいかないんだよな。
全く、面倒な話である。
そんなどうでもいい事を、人を殺しながら考えている。
相手も全くの考え無しではないので、送り込む人員は一回につき50人と、かなり大規模であった。
その全員を、俺は殺して回っているわけだ。
魔法のような殺傷能力の高い遠距離攻撃で戦うというのは、油断さえしなければかなりエグい事ができる。
凛音と莉菜が目立つ位置で戦う傍ら、俺は木陰に隠れて狙撃手をしている。目立つ二人がいるおかげで、俺の存在は気が付かれる事がない。
森での戦いは慣れているので、人を殺しているという事以外はあまり苦にならない。
――恨み言や命乞いを聞きながら人を殺すのは、良い気分では無い。慣れたくもない。
慣れたくもないけど、何を言われようが躊躇無く殺せるようにはなっている。
トラウマ、PTSDの類いとも縁が無いので、心の一部が麻痺しているのかもね。ありがたい事に。
「嫌だ、死にたくない」
こちらが同じ事を言ったら、助けてくれるのかな?
「畜生、なんで俺がこんな目に」
人に害をなすためにここに来たからだろ。
「ごめん、もう帰る事は出来そうにない……」
ああ。返す気が無いからね。
心の中でツッコミができる程度にしか、死にゆく誰かの最期の言葉は聞こえてこない。
ほとんどの連中は死の間際に言葉を残す事ができないし、意味不明な叫び声を上げるのが精一杯。
50人いても、聞こえた最期の言葉は片手の指で済んだよ。
俺が聞き取れなかっただけかもしれないけどさ。
油を撒いて、火をつけた。
それですぐに死ぬなんて話は無いけど、毒草も混ぜれば話は別。煙に含まれる毒で過半数が死んだ。
あとはパニックを起こした連中をチマチマ削る簡単なお仕事だった。
ついでに俺のメンタルがガリガリ削られた気もするけど、それ以上に厄介な情報があった事に顔をしかめる。
手に入れたカードを見て、俺は懸念が当たった事を知ったのだ。
『ヒューマン・メイジ』:ヒューマン:☆☆☆:中:10日
ヒューマン・メイジ1体を召喚する。人間の中にも、ごく稀に魔法の才を持った者が現れる。これは人の可能性の一つである。