3-10 ヤクザ・堀井組
問題が起きたのは、帰り道。
名古屋から2日かけて辿り着いた蒲郡から豊田方面へ北上している時の事だった。
名古屋近辺に比べると、このあたりは町や村が少ない。
道を間違え岡崎を迂回してしまった俺たち一行は、矢作川の近くで一泊し、川沿いに豊田市を目指していた。
そして豊田まであと少しという所で――再び、モヒカン集団に囲まれることとなった。
「手前らか、ヤス達を殺ったのは」
ただし、今度はモヒカンだけではない。
角刈りの、ヤクザらしき男が一緒にいた。
この男はいかにも荒事に慣れているといった風体で、年は白髪多めの頭を見る限り、50かそこら。
モヒカンたちとは違い、“強い奴”特有のオーラのようなものが感じられた。
三人娘のうち2人でかかれば確実に勝てると思うけど、一対一は厳しいかも。思わぬ怪我をしかねない。運が悪ければ負けるかも?
それに、周囲を囲んでいるモヒカンたちの数も多く、有利な状態とはとても言えない。今回はかなりヤバそうである。
「そうです。私たちがあの男を殺しました!」
夏鈴が、俺を守るように一歩前に出る。
莉奈も槍を手に後方を警戒し、凛音はすぐに魔法――おそらく『ファイアジャベリン』――の準備に入った。
完全に臨戦態勢である。
俺自身、まともな話し合いは難しいと早々に見切りをつけ、援軍を誰にするかと考えだした。
全滅は難しいだろうから逃げることも考え、草原大狼がベストかな。
「そうかい。
あんなんでも、あいつらはうちら堀井組の可愛い子分でな。俺も兄貴としちゃあ、面倒を見てやってたわけよ。
馬鹿で手のかかる子分どもだったが、手間がかかってた分、兄貴としちゃあ可愛いわけよ。
そんなヤスを手前らが殺したんなら。
ケジメ、つけねぇとなぁ!!」
俺たちが臨戦状態に入った事。モヒカン殺しを
それを受けて、角刈りヤクザが開戦の狼煙を上げる。
弓矢による狙撃。
モヒカンは分かりやすく周囲を囲んで一方向だけ隙間を作っていた。
そこから逃げるようにと誘導する意図だったのではなく、弓士の射線を通していただけ。
角刈りヤクザが大声を上げて俺たちの注意を引きつつ外に合図を送り、攻撃が開始された。
「サモン! 『草原大狼』!」
「『ファイアジャベリン』!」
しかし、こちらも開戦したのであれば容赦はしない。
俺は大狼たちを召喚し、凛音が魔法で角刈りヤクザとその背後にいたモヒカンたちを消し炭にする。下半身など焼け残りはあるが、胴体部分は焼滅である。
あれだけ強敵ムーブをしておきながら、角刈りヤクザがあっさり殺されたのに納得できない部分もあるが、楽に勝てるならその方が良い。
視野の広い夏鈴が俺に向けて飛んできた矢を弾き飛ばし、莉奈は槍を振り回し周囲をけん制する。
「お前らも焼かれ死にたいか!
それとも狼に食われて死にたいか!
死にたくなければ、殺されたくなければさっさと逃げろ!!」
角刈りヤクザがいきなり死んだ事で、モヒカンたちに動揺が走る。
俺は混乱する場の中で殺した連中をカード化して死体を消去し、大狼に乗って逃亡を開始する。
死体を消したのは場を混乱させるためと、死体が無い事を理由に殺人事件をお蔵入りさせるためだ。
この状況なら、カード化がバレることは無いはず。
とっさの考えで行動してしまったので、自信は無いけど。
こうして俺たちは、尾張の国のやくざ者・堀井組と敵対関係になるのだった。