3-5 尾張の国、入国
三人娘と一緒に、岐阜から一宮に渡る船を探していた。
「川島からなら歩いても行けるんですけどねぇ。ま、俺っちは船賃さえもらえりゃ構いませんが」
「あんな魑魅魍魎がいる街、誰が近づくか。二度と行かないぞ。ほい、お金」
「ははは。あの程度、子供のじゃれ合いみたいなもんですよ。まいど」
岐阜を出て岐南に着いたが、このあたりに船頭がいなかったので少し西に動き、ようやく目当ての船を見付けた。
船頭の祖父さんに船賃を渡し、四人とも船に乗り込む。
それにしても、疲れた。
木曽川に橋が架かっているというので最初はそちらに行ったのだが、そこは非常に面倒な土地だったのだ。
木曽川には、川幅の狭い場所がある。
古くは岐阜県側、美濃の国の所属だった川島という土地なのだが、この世界では非常に面倒な緩衝地帯になっていたのだ。
川を見ればどちらかというと愛知県寄り、今の尾張の国に近いため、所属の問題で揉めに揉め、今では双方が所有権を放棄した空白地帯となっている。
陸路というか、橋があるから船を使わずに木曽川を渡れるという事で交通の要所であり、どちらも自分たちが押さえておきたいと暗躍している。
何と言うか、商業の町であると同時に美濃と尾張の代理戦争の土地となってしまったと言うべきなのだろうか?
非常に、面倒くさい。
最初はそんな事を知らず、足を運び少しだけ歩いてみたんだけど……ここから尾張に入るのは嫌だと、逃げ帰る程度には面倒な土地だった。
派閥争い、面倒です。
関わりたくない。
船でちょっと流されつつ、川を渡る。
長良川でも思ったけど、川の流れはかなり早く、何も準備せずに落ちたら助からない可能性がかなり高い。
正直、かなり怖い。
「ほい、着きましたぜ」
「あ、ああ。ありがとさん」
「おーきに。税の支払いはあっちでさぁ」
一応、こういう船頭は許可制で、船頭らは関所の番人の役割を持っている。
船を降りた後の手続きをするための、事務所のような場所を教わった。
入るときも手続きをしたが、こういう手続きをしておかないと、身分的に困ることになる。
何処から来た、何処に行く。
それを証明する紙を貰い、身分証とするのだ。
俺は小口の買い物しかしないつもりだが、高い物や大量購入をしようと思うと、どうしても身分証が必要になる。
金さえ払えば売る、そんな話は無いのだ。
面倒ではあるが、同じ理由で岐阜でも買えないものは多い。
商売をするなら届け出をして、一部の高級品を買いたくても届け出をしてと、そのあたりはかなり面倒だ。
買えないままで構わないと思う程度には。
そうやって、国は物資の動きを統制している。
ここはモノ余りの国ではないから。
「美濃の者か。海まで行き、魚を食いたいだけの旅行者。
いいだろう。この紙を持っていけ。帰るときに必ず返却するように」
「はい。ありがとうございます」
「うむ。尾張の国は貴殿を歓迎するぞ」
関所? そこで簡単な入国手続きを終えた俺は、尾張の国、一宮に一歩を踏み出す。
海まであと2日かそこら。
こちらに来てからは初めての海だ。楽しみだね。