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とある日の朝

 なんか、変な夢を見た。

 海で餓死する、そんな夢だ。

 餓死したからか? なぜか腹が痛い気がする。



「旦那様。朝ですよ」

「……ああ。おはよう」


 夏鈴が起こしにやって来た。

 俺は部屋の外から声をかけた夏鈴に返事をすると、痛んだ腹に手をやるが、特に何もない。痛みは幻となって消えていた。

 体を捻ってみても違和感はないので、夢の中の痛みだったみたいだ。

 よくある「頬を抓って痛くなかったら夢の中」というのは嘘らしいし、夢の中でも痛みはあるのだろう。


「旦那様?」

「すまん。すぐに起きる」


 部屋の外で一向に起きてこない俺を訝しんだ夏鈴に呼ばれ、俺は急いでベッドから出ることにした。





「妙な夢、ですか?」

「ああ、海の上を漂って、そのまま死ぬ夢だよ。

 夢の中には夏鈴がいないし、そもそもカードを使おうともしていなかった。まるで、別の誰かの夢を見ているようだったよ」

「別の誰か……。もしかしたら、こちらに“来る”前の旦那様なのかもしれませんね」

「どうだろうな? なんとなく、違う気がするんだよなぁ」


 夏鈴に夢の話をしてみた。


 夢の事なので、起きてしばらくすれば記憶はあやふやになる。覚えているのは「海で餓死した」「腹が痛い」の2つだけである。

 細かい部分、それより前は何も分からない。


 あと、自分の事と言う実感はない。

 夏鈴は俺の過去と言うが、おそらく違うだろう。他人事としか思えない。

 それに、だ。


「最近の夢見は、なぁ。なんかおかしいんだよ。

 大蛇退治をしたり、大蛇になって人を食い殺したり、なんかゴブリン牧場を作ってオークと戦ったり、肉が食いたい欠食児童になったり、地域住民と揉めたり。どうにも一貫性がないし、俺の記憶と一致しない。

 どこかで読んだ本の中身にそんなのがあったか、そう思うわけだ。

 特に最初の2つは、出雲の歴史書にそんな話があった気もするし、あとは文明が残っていた時期の話のような気もするし。技術資料のついでに当時の記録も読んだからな。それであんな夢を見たって思ったん、だが……」


 それで話が終わりなら、ここまで意識していない。

 口には出さないが、大蛇を倒したあとに手にいれた、人間のカード。これが悪さをしているような気がするんだ。

 カードになった人の、無念や渇望、そういった感情が俺に何かを訴えているのかもしれない。


 その、問題のカードは絶賛封印中だ。

 あのカードは、どれも使わないと決めた。

 箱にいれ、ドラム缶&コンクリで固め、大阪の海に沈めてきた。強度を強化しておいたし、簡単には表に出てこないだろう。

 少なくとも、俺が生きている間は海の底にあるはずである。





「なら、気にすることもありませんね」


 俺の微妙な空気を読み取ったのか、夏鈴は味噌汁のお代わりを椀に入れ、差し出してきた。

 頼んではいないが、それだけで何か優しい気持ちになる。

 話はここで終わり。考えるだけ無駄。なら、それでいいじゃないかという気持ちになる。



 俺は椀に口をつけ、味噌汁を飲む。

 美味い。

 頬の緩んだ俺を見た夏鈴は微笑み、胸に抱く咲耶をあやす。


 外には林檎の樹が生えていた。ここに来た当初に植えた樹だ。

 その時よりも大きくなった樹は、天に向けて多くの枝を伸ばし、これからも更に枝を伸ばしていくだろう。

 林檎の樹が、風に吹かれ枝葉を揺らす。


 それはただの、平穏な1日の風景だった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

これで「カードクリエイターのツリーグラフ」は終了となります。


やり残しもありますが、それはまた別の機会に回収しようと思います。三人称ベースの閑話など、別に投稿しようかな、と。

そこでまた読んでいただけるよう、精進します。

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