+6 裏:???
ゆらゆらと、波間に揺れている。
全身から痛みの信号が送られるが、それを処理する頭は朦朧としていて、痛いと思う事は無い。
それが、幸せな事なのか、それとも不幸な事なのか。それすらも分からないまま、俺は海の上を漂っていた。
自分の名前を思い出そうとしたが、思い出せなかった。
体は軋み、まともに力が入らない。
自分に何が起きたのか?
記憶を漁ると、娘に刺された時の事を思い出した。
ああ、そうだ。
俺は船の上で妻を殺し、それを見た娘に刺されたんだ。
その後、なぜか船が爆発して俺は海に投げ出された。
娘は――その爆発を背に受け、死んだ、と思う。
大きな破片が背中に刺さっていたんだ。気っと助からない。
いや、そもそもなんで俺は妻を殺した?
確か、そうだ。妻は蛇の化け物に、体を乗っ取られたんだ。
何やら黒い石を埋め込まれ、記憶はそのままに、心と体を化け物に作り替えられていたんだ。
ああ、糞ッ!
記憶が、うまく引き出せない。
なぜ妻はそんな目に遭った?
俺はいったい何をしようとしていた?
何も思い出せない。
意識が保てなくなっている。
海に浸かり過ぎたんだ。体温が下がり過ぎて、生きていて、意識があるだけで奇跡なのかもしれない。
人間は海に浸かったまま、何時間生きていられるんだろう?
何も食べていない。
水分も、取っていない。
このままでは、本当に死んでしまう……。
けど、その方が良いのかもしれないな。
妻は、この手にかけた。
化け物になっていたとはいえ、止めを刺したのは、まぎれもなく自分だ。
娘はもう、先に逝った。
母を殺された怒りで俺を刺し、そして原因不明の、船の爆発に巻き込まれて死んだ。
そして俺は大切な人を喪い、たった一人、誰にも知られず海の藻屑と消える。
救いなんて、どこにも無かった。
何が駄目だったんだろう?
どうすれば、こんな目に遭わずに済んだんだろう?
ただ、家族で慎ましく生きていく事すらできないのは、なんでだ?
「き……ね、さく……」
最期に妻と娘の名を口にしようとしたが、上手く口が動かない。
もう駄目だ。本当に、死んでしまう。
願わくば、来世でも二人に会えますように。
今度こそ、幸せになれますように。
“一から”、やり直せますよに。