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+5 裏:金野 成樹

 まったく、忌々しい“自称”善意の代弁者共め。


 ワシ、「金野(かねの) 成樹(なるき)」は、苛立ちを押さえるため、机に拳を打ち付けた。


 魔法使いの人体実験、配給食料の不公平分配などを理由に崩壊した日本政府。

 今は地方自治体を中心に政治が行われるようになり、ここ、岐阜県も美濃と飛騨の国になった。

 ワシの居る大垣市は美濃の国だな。岐阜市に国の中心となられたのは癪に障るが、それはまぁいい。


 それよりも、このワシに対し色々と要求してくる乞食共が騒いでいることが気に食わない。

 奴等は、自分が責任を負う気概もないくせに、一丁前に要求だけはしっかりする。この手で殺してやりたいと何度思ったことか。



「ですから金野さん。電力が足りていないんですよ。金野さんのソーラーパネルがあれば、どれだけ多くの人が救えるか、分かってください」

「ふん。都合の良いときだけ、自分が何も負担しない“善意の協力”を求めるヤカラにくれてやるものなど何もない。欲しければ、自分で買えば良いだけだろうが。

 その行動も起こさず、ただ人が持っている物を寄越せと言う根性が気に入らん。

 大体、ワシはすでに近所へ給電しておる。無償でな。

 よって、他に回す余裕など無い」


 ワシは近所や山に、ソーラーパネルを置き、そこそこの量の発電をしている。

 これは近所の金に困った連中が足元を見られ、その資産を買い叩かれぬようにワシが手配していたものだ。同じ地域に済む者だ、多少の色をつけてその生活を応援してきた。

 そこで発電される今は金よりも貴重な電力だって、これまでに付き合いのある家を中心に無償で配分している。当たり前だが、それで便宜を図れと要求などしない。近所付き合いの一つにすぎん。このご時世だ。人の縁ほど高いものはないだろう。


 この連中は、ただ持っている者から少しでも自分の利益を毟り取りたいだけだ。

 そんな連中に便宜を図ることなど無意味、無価値でしかない。要求するだけで、感謝も上辺だけだろう。

 もしも給電がなくなれば、一瞬で手のひらを返す愚民にすぎん。



「大体、公共の利益や共同体の利益と言うがな、お前らはこれまで何をして来た? それを言えるか?

 ワシは言えるぞ。地元企業に金を貸し、地元住人に便宜を図り、海外の恵まれない子供への支援にも金を出してきた。名士としての責務を果たしてきたのだ。

 金はなくとも時間はあっただろう。その時間を、どれだけボランティアに使ってきた? 何もしていないのではないか? 自分の趣味だけに費やしていないか?

 ワシは、お前らのような、ただ自分のために人から奪おうとする者とは根本から違うのだ。

 大方、ここから引っ張った電力を我が手柄と喧伝するのだろうな。そして電力を供給するワシにすべての憎しみを向けさせるように煽動するのだろう。違うか?」


 何度もやって来る愚か者共を言葉で撃退していると、奴等は刃物を持ち出してきた。

 ワシの財産、電力を殺して奪おうというのだろう。愚かな。


「死ねぇっ!」

「下らん」


 神は我が正義を理解している。

 ワシの身を守るために、力を授けてくれている。

 ワシは愚か者のナイフ、金属でできたそれに命じ、根本から刃を折る。

 愚か者が突き立てようとしたナイフは柄しか残っていないので、ただ殴られた痛みはあるものの、致命傷には至らない。



「捕まえろ。殺人未遂犯だ」

「くそっ、離せ! みんなのために、俺は!!」


 騒がしい馬鹿がいなくなり、静かになる。

 実に無駄な時間であった。


 ワシは“力”でへし折ったナイフの刃を拾い、思う。

 神の遣い、あの黒い巫女服の女は、今なにをしているのだろうかと。

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