+2 大蛇の巫女
「この娘でいいか」
『 黒花 鏡花、5歳。
私は親に、端金で売り飛ばされた――
「しっかり働きな。頑張れば、良い事もあるさ」
私を買ったオジさんは、そんな事を言っていた。
私の仕事は農園の雑草引きで、毎日毎日、草を引くように言われていた。
幼い女の子を使う理由は、幼い方が安くて制御しやすく、男の子より育ちが早いのと、育ったあとに使えるから。
私は大丈夫だったけど、お姉ちゃんたちはたまにオジさんのところに連れていかれる。それでなにか慣れると楽しいことをするんだけど、疲れて戻ってくる。
ただ、お姉ちゃんたちは、お腹が大きくなって、そのうちいなくなる事があるの。戻ってくるお姉ちゃんはお腹が元通りなんだけど……なんだろう? 凄く弱っているの。
不思議だよね。
私もお姉ちゃんになった。
私より小さい子がたくさん。
そしたら、私もオジさんに呼ばれたの。
「さあ、服を脱ぐんだ」
水浴びでもないのに、服を脱ぐの?
何をするか分からないけど、とにかく私は言われた通りにした。
けど。
「くぼぁっ!?」
オジさんが、死んじゃった。
食べられちゃったの。
でっかい蛇さんが、オジさんを飲み込んで。
蛇さんは、私を見て、悲しそうなお顔をした。
「児童売買。まったく、悪党はいくら殺しても減らないな。
お嬢ちゃん。自分が何をされるか、分かっていたのか?」
「ううん? 分からないよ。でも、言いつけは守らなきゃ」
「見た目以上に中身が幼い? ああ、そういう育て方をしていたわけか」
蛇さんが、私の顔をのぞきこんだ。
「なぁ、俺と一緒に来ないか? きっと、今までより、お腹いっぱい食べれるぞ。美味しいものもたくさんある」
「本当に? あ、でも、怒られちゃう」
「誰に? 悪いオジさんはもういないのに?」
「あ、そっか」
それで、蛇さんは優しいお顔で素敵な事を言ってくれたの。
ご飯をたくさん食べれるんだって。
普段はちょっとしかなくて、でもみんなで分けなくちゃいけなくて、美味しいものもあんまり無いの。
私もお姉ちゃんになったんだから、我慢しなくちゃいけなくて……。
そうだ!
みんなもいるの!
「ねえ、蛇さん。みんなも一緒に行きたいの。大丈夫?」
「みんな? 何人いる?」
「あのね、いっぱい!」
指で数えても、数えきれないの。
だから、いっぱい。
そう言ったら、蛇さんはまた悲しそうな顔をした。ダメなの?
「ああ、いいぞ。何人でも構わない。一緒に行こう」
大丈夫なのね。良かったぁ。
こうして、オジさんに売られた私は、みんなと一緒に蛇さんと暮らすことにした。
奴隷だった私は人となって、大蛇様の元でみんなと一緒に色々と学んだわ。
世間の常識。算数や簡単な学問。
そして私たちの悍しい環境が、外からどのように見えたのかも。
かつては絶対的な支配者だったあの外道が、何をしようとしていたのかも。
そして、私は。
「はぁ。こうなる前に、人里に出すべきだった」
「それでは恩をお返しできませんもの。お断りします」
私は大蛇様に仕えることにした。
そして私のような者を出さないように、お力になれるように、修練を積み、各地を巡った。
あの地獄と違って、厳しくとも素晴らしい生活の中、妹たちと共に、幸せな生涯を送った。
私は死後、大蛇様の糧となり、その血肉の一つとなるだろう。
私は黒花鏡花。
大蛇様に救われた、大蛇様の巫女。
例え死んでも、それは変わらない。