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+1 裏:雄総潤一郎

 俺――雄総 潤一郎――は、微睡みの中にいた。


――殺セ


 ただ、それは心地好いものではない。

 むしろ、嫌悪感を抱く状態だった。


――奪エ


 何せ、頭の中に、悍しい声がずっと響いているのだから。


――犯セ


 思考能力の低下した微睡みの中で、この声に抗うのは難しい。

 意識をしっかり持たないと、取り返しのつかない過ちを犯しかねない。


――憎イ


 だから、俺は――――





 俺はかつて、家族と国を守るために、蛇の化け物を自分の体に封印した。

 蛇の化け物は一切の攻撃が通じず、その対抗手段が俺の開発した『補食封印魔法』しかなかったからだ。

 いや、他にも手はあったかもしれないが、それが一番成功率の高い手段だと、国は判断した。


 俺は俺の大切なものを守るため、国の指示通りに動いた。

 失敗するかもしれない。無駄死にするかもしれない。

 そんなことは百も承知だ。

 それでもあの化け物と対峙してきた多くの兵士たち同様、上手くいくという一縷の望みにかけるしかなかった。



 俺は、家族のため、国のために必死になって。

 そして上手く化け物をこの身に封じて、

英雄になった。


 化け物に食われていく、哀れな人柱という正体を隠して。



「あなた……」

「おとーさま、いっちゃやだー!!」

「済まない、桐絵(きりえ)。ごめんな、陽翔(はると)


 このままでいれば、俺はいつか、愛する二人をこの手にかけるかもしれない。

 だから、自ら死を選ぶことにした。

 他の誰かに悪影響を及ぼさないよう、人の来ない場所で。


 家族には、旅に出ると伝えた。

 そんな俺の嘘を見破り、妻と息子は俺を悲しげな目で見る。引き留めようとする。

 だけど、行かなくちゃ、俺は最愛の家族を手にかけてしまうかもしれない。

 それだけは、絶対に許せなかった。


 仲間たちには、本当の事を教えてある。

 俺の研究を引き継がせ、歴史書には一部改竄した情報を、真実は一部の人間にしか教えない秘匿情報とした。

 下手に真実を広めても良いことはない。民衆には、甘い幻想を持たせておいた方がいいからだ。

 一度は英雄と持て囃した人間の末路など、知らせない方がいい。



 こうして終活を済ませた俺は、死に場所を選ぶ旅に出た。





 俺が死に場所に選んだのは、黄泉比良坂といわれる場所だ。

 ここならあまり人も来ないから、構わないだろう。


 そう判断した俺は、入念に準備を整える。

 大岩二つを使った魔法により、自身を封じ込めるようにした。

 あとは封印された俺が脱水症状になって死ぬか、餓死するだけだ。

 普通の生き物は、封印したところで飯が要らなくなるわけではないからな。雨が降らなければ3日で終われるだろう。降ったところで、10日と持たないはずだ。


 餓死などは死刑の中でもかなり辛いと聞くが、それでもこうするしかない。

 首を括って死んでは死体が残るし、死体が残れば、そこから化け物が蘇るかもしれない。そういった最悪を考えれば、封印後の餓死以外の選択はできなかった。



 家族だけでも守りきれたんだ。

 この命がここで潰えても惜しくはない。


 ああ、それでも。


「陽翔が、大人になる姿を見たかったなぁ。

 孫を抱いてみたかったなぁ。

 娘も欲しかった。夏鈴とか(・・・・)、名前も考えていたんだ。

 もっと、桐絵の傍に居たかった。


 死にたくないよ」


 それでも、それでも。

 俺は家族を守りたい。


 俺は、自分に封印魔法を使った。

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