-10
大蛇を倒したことで、ようやく心に余裕ができた。
「あ、試すだけ試すか」
推定・幽暗の大蛇を倒したので、どうせだからとカード化を試してみる。
すると、こいつも簡単にカードになった。
元神様の大蛇の巫女がカード化できたのでできるとは思っていたけど。うん、拍子抜けするぐらいあっさりとカードになったな。
ただし。
『幽暗の大蛇』:モンスター:☆:極大:不可
幽暗の大蛇を召喚する。かつて神だった大蛇は、人に飲まれ、狂っていった。その狂気は人の負の感情を増幅することで伝染する。
絶対に召喚したくないカードである。
魔力の消費も重いし、したくてもできないだろうけどね。
☆が1つなのも含め、その辺りは巫女と同じようだ。
と言うかね、このリキャストタイムの「不可」って、要は召喚したらそのままカード化が解除されて逃げられるってことだろ。
絶対に、召喚しない。下手をすれば死ぬ。
そして、幽暗の大蛇から生えていた、人間たちもカード化された。
名前を確認すれば、水無瀬少年や、尾張の村河さんと言った名前もある。水無瀬少年、このカードを信じるなら、腕力系のギフト持ちっぽいな。村河さんは鑑定か。なるほどね。
金野成樹? 金属詳細鑑定か。便利な能力だな。
――あと、名前を聞いたこともない、カードクリエイターのカードもあった気がしたけど、気のせいだったね。
俺は見ていないよ。
年は少々違うけど、俺と同じ顔をした、男のカードクリエイターなんて知らないよ。
だから。ここで手にいれたカードが1枚減っていることなど無い。無いったら、無い。
うん。俺はなにも見ていない。
大蛇に俺が生えていたとか、そんな事実も無いのだ。きっと見間違いに違いない。
細かいことなど、いちいち気にしてもしょうがないと思わないか?
このあと、特に何かあるという事はなかった。
可能なら某女神様が再び現れ、こちらに事情を説明するといったイベントが起きてほしかったが、そんな都合の良い話は無かったのだ。
世の中、知りたい事を全部説明してもらえるほど優しくない。
大体いつも説明不足だ。足りない分は、自分で調べるしかない。
それは俺の推測だが、あの幽暗の大蛇はこちらに自由に干渉していたと思う。
そして、過去の記憶の一部を奪った状態で転移者らしき人間を配置し、その様子を観察して遊んでいたのだろう。
たぶん、巫女もその被害者の一人なんじゃないかな。
敵味方という陣営を作り、争わせる。
その方が場が混沌とするし、いざ何かやらせようという時に便利だから。
適当に干渉し、弄び、愉悦に浸る。
作り物の世界のゲームをしている子供のように、中で生きている誰かの事など考えずに。安全な場所から、遠いどこかの出来事のように、俺たちで遊んでいたと思われる。
全部、俺の推測だ。
こうやってあっさりと俺に倒される辺り、もしもこの推測が当たっていたら、あの大蛇がずいぶんな間抜けだったのか。それとも、大蛇を封じたという雄総さんが頑張ってこの状況を作り上げたのか。
真実は、もう分からない。
はっきりしているのは、俺は生き残り、このまま生きていくというだけである。