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まぁ、実際にこの中のどれが雄総ってやつなのかは分からない。
ただ、この人間の生えた蛇のどこかに雄総がくっついているんだろうとは思う。
そう思っていたが、どうやら外れたようだ。
大蛇の体、枝分かれする前の部分が縦に裂け、その中から新たな男が出てきた。
と言うことは、俺は雄総のコピーではなかったようだ。雄総ではない、別の誰かか。
……あんまり変わらないな。気分的には。
「逃げろ」
俺がそんな益体もないことを考えていると、割れ目から現れた最後の一人は、いきなりそんなことを言った。
言われ、何がと問い返さず、俺はすぐに大蛇から距離をとる。元から盾持ちの鉄壁軍を壁にするような位置取りだったが、さらに後ろに下がり、親衛隊に後方、そして上下の警戒をさせた。
あと、足元に鋼板を敷く。
それを待っていてくれたわけではないだろうが、大蛇の、蛇の頭が伸びて、こちらに襲いかかってきた。
「こういった展開なら、悪役は冥土の土産に情報をベラベラ喋ってくれるのがお約束なんだけどな」
「旦那様。ここは冥界です。ですから渡す土産も何も無いのではありませんか?」
鉄壁軍が頭の突撃を防ぐ。
攻撃されたという状況で、思考を介さない反射行動で列を揃えて盾を構えたのだ。
硬質な音が響く。鉄壁軍はその名に恥じぬ働きを見せ、大蛇の頭を見事に弾いた。
彼らの盾はルーンメタルに換装してある。攻撃が体をすり抜けただの、そういった話を聞いての措置だ。
有り難いことに、魔力を通した装備なら大蛇の体に無効化されないようだ。
これでオーク達があっさり飲み込まれたら、洒落にならない状況だったんだけどね。備えが無駄でなくて良かった。
「全軍、攻撃開始!」
鉄壁軍が攻撃を防いだことで、仲間達の意識が戦闘用のものへと、完全に切り替わる。
俺と同じ顔がぶら下がっていた衝撃から抜け出せたようだ。夏鈴の命令で魔法軍らが一斉に魔法を使う。
使われる魔法は複数種類あるが、基本的には火の魔法。応用で光や雷の魔法も使われる。
複数の魔法を使うときは相互干渉による威力の減衰に注意しないといけないから、干渉してもデメリットの少ない組み合わせが好まれる。
相手が大蛇なので、今回は火がメインなのだ。他も、火と相性のいい魔法が補助するに留まる。こんな環境下では、水や氷は使わないよね。
一見すると、魔法攻撃は大蛇にダメージを与えている。
体が削れているように見えるし、生えていた人間部分が吹き飛んだりしている。
――あ、吹き飛んだ中に水無瀬少年の体もあった。俺のも消し炭だな。
ただ、決定打には結び付かず、どこか致命傷にはならないと、そんな気がした。