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冥界の移動は、心臓に悪い。
「今度は山か……」
「霧が出ています。ご注意を」
敵は出てこない。
しかし、景色がコロコロ変わる。
先ほどまでは草地を歩いていたのだが、突然別の地形に姿を変えるのだ。
300mも歩けば景色が変わるので、俺たちは先頭と後方で見ている景色が違ってい当たり前。そんな中を歩かねばならない。
初めて景色の入れ替りを体験したときは、前列の奴らが足を止めてしまい、後続とぶつかる事故が起きてしまった。
今は前後の距離を空けながら行軍しているのでいいのだが、それでも景色の切り替わりは、あまり嬉しくない。
出てきた場所から戻れば元の場所に行けるけど、10mも横にずれれば別の場所に行ってしまう。帰りが大変すぎるのだ。
「これはどんな原理なんでしょうね?」
「たぶん、死者の持つ“死後の世界”のイメージを元に作られているんだろ。世界の狭さは住人の消滅が関係しているとか、そんな感じ。
ただの想像だけどね」
夏鈴は現在の状況を把握しないと戦術に影響が出るため、法則性などにいくつかの仮説を立てて、できるだけ理解をしようとしていた。
俺はシャーマンの王様を決める漫画の中にあった設定にこの状況を当てはめ、だいたいのイメージを作り上げていた。
そこまで難解ではないと思うよ。
別の見方をすれば、冥界はネット社会とも例えられる。
切り替わる世界はサイトのようなもので、特定のテーマを持つことで人を集めるようにしている。
管理者が頑張ればサイトは大きくなるけど、来客、収益が見込めなければ縮小されていく。
現状は誰も見向きもしないような状態かね。見事なまでに、生き物の気配がない。
まぁ、こんな仮定にどこまで意味があるかは知らないけどね。
そこは、夏鈴に任せよう。
本当なら、出来れば、一度撤収したい。
こういった特殊な環境は、時間をかけて対応するのがセオリーだ。
けど、最初に女神様に「あっちを見てこい」的な対応をされたため、それも叶わない。
進む方が、戻って神様の不興を買うよりましだからね。理不尽だが、現実なんてそんなものだ。
ただ、「本当にこの方向でいいのか?」とは思っている。
どの程度進んだ先に「大蛇と愚か者」が居るかは聞いていないので、一抹の不安が頭をよぎる。
それでも指示に従い2時間近く歩くと、とうとう目的地らしき場所に辿り着いた。
まるで肉の洞窟、そんな邪悪な雰囲気の世界だ。悍しい、脈打つピンクの光景に思わず吐き気が込み上げる。
ゲームや映画では定番なんだけど、実際に自分の目で見ると、ひたすらに気持ち悪い。
「≪バーストストリーム≫」
あまりの気持ち悪さではあったが、未知の環境のため、俺は確認のために一番強い魔法を試すことになった。
いざというときの、道を作るための手段として使えるかどうかだったけど……こうやって作った道は、あんまり通りたくないよなぁ。