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黄泉比良坂に来るのは、2回目だ。
1回目は俺の指示により開いてしまった冥府の門を閉じるため。
2回目の今回は、俺自らが門を開き、その先へと踏み込むこと。
敵をどうにかしたばかりの前回のうちにそれをした方が良かったという考えもあるが、もう一度門を開くのは情報が出揃ってからの判断なのだ。
カードのリキャストタイムや、残った仲間の疲労だって無視できない。すぐに動ける状態ではなかった。
これは先の見通しが甘い、ただの人間のすることだからと、誰とは無しに言い訳しておく。
準備万端ということで、今回は俺も戦場に居る。
前回のようなことは、また起きると考えられる。ならば離れる方がハイリスクなので、護衛を連れて夏鈴の傍でそのまま待機だ。
大蛇の巫女が急襲してくる可能性は高く、警戒網は密にしている。
抜かれることは、まず考えられない。
「では、敵が出てきたときの対応は任せる。
タイラントボアは温存でいいんだよな?」
「前回と違い、今回は相応の戦力を揃えました。出てきたばかりの敵は数が少ないときいていますし、今の戦力で対応可能です」
「相手が、前回以上の戦力を投入する可能性は?」
「無い、とは言い切れません。ですが、出せる戦力ならば前回投入されていたでしょう。
普通なら、戦力の補充は難しいんですよ。旦那様の能力が破格なだけで、こんなに簡単に戦力を追加できる方がおかしいんです」
一年という準備期間で、出来ることをやった。
軍系統のカードを増やし、事前に召喚を済ませ、リキャストタイムの問題もクリア。
相手の事情に付き合わされずこちらが準備期間を確定したこともあり、前回よりも大きな余裕がある。
不安に思うことなど無い。
夏鈴の宣言通り、出てきた敵は瞬く間に殲滅された。
数がいたからこそ危険だった前回。
敵が少数なら、数の多いこちらが有利とはいえ、損耗無しですべて終わった。
巫女のような大駒を欠いていた事もあり、戦局は終始こちらが押し続けた。
巫女が現れなかったことは気がかりだが、いつまでも気にしてもしょうがない。
もしかしたら、こちらの戦力を見て、この場での戦いを避けたのかもしれない。
考えて正解にたどり着ける話ではないから、この件に関しては警戒を続けるだけにする。
冥界の領域は目に見えて広がるものでもないので、焦る必要はない。
じっくりと、確実に、奥まで踏みいってやろう。