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俺の手持ちのカードは、優に千枚を超える。
8年近く頑張ってきたので、整頓するだけで一苦労だ。
常用するカード、戦闘用のカード、交易に使えそうなカード。
そういった喫緊の使用が考えられないカードは、8割以上になる。
未強化の『ゴブリン』とか、合成以外に使い道がないんだよな。『乾いた草』とかもたくさんあるけど、すでに餌や燃料として使う気にもならない。
かといって廃棄しても、なんの足しにもならないのでそのままだ。
☆が少ないから、将来は咲耶の魔力強化訓練の教材にするぐらいか。☆1つや2つ程度なら間違いも起きないだろうし。
こういった考えを持っても、嵩張らないのがカードの良いところだ。これで場所を食うようなものや片付けが大変なものなら、『不使用』=『即廃棄』である。
ゴブリンの場合は害獣扱いで殺処分かね? ちょっと可哀想な気もする。
そうやって使わないカードの整頓、並べ替えをしていると、1枚のカードが目に留まった。
『オークゼルブ』:モンスター:☆☆☆:大:1年
オークゼルブ1体を召喚する。オークゼルブはまだ形の定まらないオークである。あらゆる環境に影響を受け、あらゆる全てを受け入れる。
謎過ぎて使っていない、死蔵したカードだった。
なんと言うか、カードの名前の意味が分からず、テキストは七つの大罪にある「暴食」をイメージさせるので、怖くて放置していたのだ。
今は☆3だけど、一気に強化されそうでね、俺のコントロールを外れそうなんだよね。
悪い予感はよく当たると言うので、よく分からないカードを使う気にならないんだよ。
嫌なカードを見て、俺の顔が歪む。
そんな俺の背中から顔を出して、夏鈴がカードを覗いた。
「懐かしいですね。オークゼルブでしたか」
俺の反応が変だったので、気になったようだ。
そしてカードを見て、俺の顔色の変化に納得した。
このカードは夏鈴も覚えていたようだ。
名前はともかく、テキストにインパクトがあるからそんな奴がいたことなら記憶に残るよね。
何かあったときに思い出すほどではなかったけど。見れば思い付くことがあるらしい。
夏鈴はこれまでに考えていた風ではなく、今思い付いたといった様子で、こんなことを言い出した。
「このカードは黄泉比良坂の攻略に使えるのではありませんか?」
「へぇ。その心は?」
「環境への適応力ですね。もしかしたら、必要になるかもしれません」
成る程。
黄泉比良坂の先は冥界だ。特殊な環境と考えられる。
ならば、適応したカードがある方がいい。
リスクはあるが、順当な意見だろう。
「なら、このカードを使う選択肢も頭に置いておくよ」
リキャストタイムとか使いにくい部分は強化で誤魔化そう。制御も強化でなんとかなるかな?
取れる選択肢は心の余裕に繋がる。俺は夏鈴の意見を採用した。
あとになって思い返すと、この決定が黄泉比良坂の攻略における、俺の命運を定めたのだった。