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3-1 塩の話

「塩?」

「ああ。輸送中に何かあったらしくてなぁ。尾張の国、尾西の連中からこっち、塩が回って来ない。一宮の連中にはまだ話を聞いていないから、岐阜市の方は知らんがな。

 なぁ、創。そっちの塩は大丈夫か?」



 金を巡る騒動から少し経ち、季節は夏になった。


 夏と言えば、クソ暑い季節である。

 汗がダラダラと流れ、脱水症などに気を付けねばならない。


 そして水分と同様、塩分の補給も重要なのは常識だ。

 俺の場合は『リンゴ』+『塩』+氷水』で、よく冷えた『スポーツドリンク』を作っているので特に問題ないけど。

 付け加えると、『水』や『塩』のカードは使用頻度とかの関係で増えやすいので余裕もある。


 そんな夏に、月一で来る塩業者が来なかったので、神戸町ではちょっとしたニュースになっているのだ。



 夏という季節は、雑草が伸びやすい事もあり、農業関係者はかなり忙しい。

 塩の買い付けに行く人手を出すのも大変だ。

 俺はちょっとだけ気になって、それを聞いてみるが。


「神戸町は大丈夫なの? 塩不足ってわりとヤバいし」

「いや、すぐに町の在庫が無くなる訳じゃねぇよ。半年は在庫があるし、名古屋までなら片道5日もあれば充分だ。

 俺たちは特に問題ないが、創は大丈夫なのかって気になってな」


 噂話をこうやってしていられるのは、輸送中に事故があったというだけで、塩の荷止めをされたわけでは無いからだ。


 塩を作っているのは尾張の国、愛知県西部に当たる場所だ。

 そこで海水から作った塩を美濃の国やその北にある飛騨の国に運んでいるという。

 北には日本海があるので飛騨の国はそちらから輸入すれば良いと思うけど、たぶん一方向から輸入するだけだと何かあった時が怖いから二つ以上の輸入ルートを作っているんだろう。たぶん。



「そう言えば、この間貰った蕎麦がそろそろ収穫できるんだが、あれはヤバいな。小麦並みに実が付いてる」


 この話を振った彼にとって、塩の輸入に失敗したというのは、あまり深刻な話ではなかったようだ。すぐに話題は他へと移る。


 俺は神戸町へのお土産というか、食糧事情の改善を願い、『豊穣蕎麦の種籾』を渡していた。

 その蕎麦が育ち、収穫の時期を迎えたようだ。

 蕎麦は食べるところの少ない植物だが、繁殖力に加えて可食部位の多いカード産の蕎麦だけに、彼らの常識を覆すような物だったらしい。



 俺は蕎麦の話をしつつも、尾張の国やその先にある海の方に興味を持って行かれていた。

 海の魚が食いたい、と。

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