27-29 カードクリエイターの軌跡①
俺たちは黄泉比良坂攻略の準備をしているが、それだけしかしていないわけではない。
仕事とは別にプライベートがあり、メリハリの有る生活を送っている。
特に俺の場合は、魔力さえ使いきるようにしていれば良いわけで、自由に出来る時間は他のみんなよりも多い。
その分は自主的に人と会う時間に割り当てており、集団のリーダーとして外との折衝をするようにしている。
毎日の仕事が1時間だけとか、さすがに周囲の目を気にしてしまうのだ。やるべきことを終えたと言って遊び呆けるのは気が引ける。せめて、定時時間ぐらいはちゃんとしたい。
余談ではあるが、村の平均的な週休は1日である。生産性が低いという事情で、これが限界だった。
休みを増やすには、機械化が必要なんだよね。
気長に頑張るしかない。
その日の俺は、大垣で署長さんと話をしていた。
互いの近況を伝えて、協力できそうなことを確認するのと、手が欲しい仕事の依頼をするためだ。
署長さんとは、ビジネス的に良い関係を続けている。
「だ、ようやく形になったのが、これです」
「おお、ようやく写真が完成したんですね」
「ええ……。カメラ本体はそこまで難しくありませんでしたが、フィルムはまだまだ改良を必要としています。
こちらがサンプルになるので、そちらでも研究をお願いします。また何かあれば教えていただけますか?」
「ええ。写真を残すなら、早くしないといけませんからね。
お互い、家族の写真を残したいでしょうから」
「そうですね。多少の融通はしていただかないといけませんよね」
署長さんは大垣の開発者が再現した、写真乾板を用いたカメラを見せてくれた。
この写真乾板。資料はあったのだが、細かい配合割合までは残されておらず、再現にはかなり手間取ったらしい。
付け加えるなら、必要とされる「臭化カリウム溶液」「硝酸銀」を用意することもできず、俺がそれを用意するまで研究をできなかった。
俺自身、写真乾板を作るのに必要な物など知らなかったので、話を振られてようやく用意できたものなんだけどね。
で、俺が材料を用意できたので、なんとか完成まで持っていけたわけだが。研究は、こんなところでは終わらない。
ロール式のフィルムを次の目標にして、いつかはデジカメ……俺が死んだあとの話だ、どう考えても。
冗談は横におき、俺を介さず写真乾板の材料を調達できるようになってもらいたいので、自力で臭化カリウム溶液と硝酸銀を作れるようになって欲しい。
安定した生産、世代が変わっても残る技術。
その研究を続けて欲しい。
俺はサンプルとして貰ったカメラを手に、村へと帰った。