27-26 100年先への第一歩
100年先を考えた所で、足元がしっかりしてなければ意味が無い。
砂上の楼閣で100年先を考えた所で、1年後の未来が無ければ結局何もできずに終わる。
俺の場合、足元を固めておくというのは、大蛇の巫女との決着をつける事である。
あの女を今度こそ完全に殺し切り、もう命を狙われないと安心できるようになって、ようやく平穏が訪れる。
何もしなければまた何か、ちょっかいをかけてくるかもしれない。
その時、咲耶や身の回りの誰かが犠牲になる可能性が高いのだ。
和解できそうな相手であれば交渉材料を探すところから始めようと考えるけど、あの女と和解するビジョンが、俺は思い浮かばない。
俺たちは互いに滅ぼし合うだけの関係である。
「……大蛇の巫女対策ですか。
戦力の拡充はもちろんですが、相手の目的が『黄泉比良坂の解放』と推測できる中で、その妨害をしてしまうのが一番ですよね。
大岩を固めてしまいますか? コンクリートか何かで」
巫女との戦いを振り返り、夏鈴らと、その対策を練ることにした。
俺と巫女との会話の中で、大蛇の巫女の目的が『黄泉比良坂の解放』ではないかと推測できた。
具体的には、黄泉比良坂を封じている大岩を門に見立て、これを開くことで、黄泉比良坂の向こう、冥府などと呼ばれる場所とこちらを繋ぐことだ。
そうやって繋いだ後に何が起こるかは分からないが、おおよそロクでもない事なのだろう。
もしもまともな理由なら、普通に依頼して開かせれば済む話だからね。
それが出来ない以上、俺たちにとってあまり良くない内容なのは間違いない。
夏鈴の言うように、大岩の門を二度と開かないようにしてしまうのは、普通に考えれば良い考えだと思う。
だが。
「黄泉比良坂の先に、何があるのか確認する。
そう言ったら、反対するか?」
「――いいえ。なんとなくですが、そんな事を言いだしそうな気はしていました」
俺は、夏鈴の意見を受け入れるよりも、黄泉比良坂の“奥”を見に行く事を提案していた。
そんな俺の言葉に、夏鈴は呆れたような顔をしたが、すぐに「やっぱり」と苦笑いした。
これは夏鈴が俺を理解していると取るか、俺が誰にでも分かる単純な奴かと取るか、微妙な所である。答えは、確認したくないかな?
「せっかく説得の言葉を考えていたんだけどな」
「可能性の一つに、大蛇の巫女が黄泉比良坂の奥に進んで欲しくない、そういう理由もありましたので。
大蛇の巫女の不死性、その根幹が黄泉比良坂の奥にあったとしても、不思議は無いと思いませんか?」
俺も苦笑いに苦笑いで返しつつ、ちょっとだけ残念そうな顔をしてみせた。
リスクを考えればやらずに封印が正解なのだろうけど、それよりも好奇心と言うか、大蛇の巫女の行動に引っ掛かりを覚えていたので、奥を確認しておきたいと、そう考えていたのだ。
大蛇の巫女の行動って、どこかチグハグな印象があったので、色々と、ちゃんと確認しておきたい事が多いんだよね。
迂遠で、上手くいこうがいくまいが関係ないといった発言。
その割に、門が再び閉ざされたと知って呆然とした姿。
どこからどこまでが本当で、どこまでが嘘なのか分からない態度。
あれほど言動が信用できない奴も珍しい。
「なら、黄泉比良坂の門を、もう一度開く。
そして奥を確認する。
これを来年度の目標にするよ」
「ええ。今度は、旦那様を完全に守って見せますね」
100年先への、第一歩。
俺は、その為の準備に取り掛かるのだった。