27-22 咲耶④
周りにいたみんなが一通り驚いたところで、俺は咳払いをして、場を仕切り直した。
急な展開に驚きはしたが、咲耶は俺の娘なので、カードクリエイターの能力を持ったとしても不思議はないのだ。清音と美星という前例があるので、ありえなくもない。
驚きはしたが、予定調和である。
「咲耶は、これで外に出せなくなったなぁ。
迂闊に外に出したら、人をカード化しようとするかもしれん」
「旦那様、人は相手が拒否すればカード化できないのでは?」
「拒否すれば、だね。相手が子供だった場合、興味本位でカード化される事もあると思うよ」
「ああ……。その通りですね」
これまでの子育ては、カードクリエイターの能力なしのものだった。
だが、今後はカードクリエイターの能力を持っている前提で、咲耶を育てていかないといけなくなった。
難易度が跳ね上がってしまった事に、俺は頭が痛くなる。
カードクリエイターの能力は、俺もフィーリングで使っていたので、赤子の咲耶が使えたとしても不思議ではない。
腕を振り回すように、能力を使ってしまうという訳だ。
「とりあえず、だ。今度から、ピーマンはカード化した物を使うようにするか。カード化して食べずに済ませるとか、そんな甘えを許す訳にもいかない」
「そうですね。好き嫌いは良くありません。アレルギーの確認のためにも、一度は咲耶に食べさせましょう」
親としては、カード能力を玩具のように振り回す子供を許容する訳にはいかない。
ちゃんとしたモラルを身に付けるまで、能力をきっちり管理していく必要があるだろう。
子供にしてみれば窮屈な話だが、普通の親を目指す俺は、そこは厳しく締め付けていく所存である。
結局のところ、カード能力の有無で子供への愛情が変わるわけでもない。
そう思えば、多少は気分もマシになる。
実際は、能力の有無が子育ての大変さに直結することは否定できない。
それでも、建前で意識を逸らせられれば、意外と頑張れるようになる。
戦争には大義名分ってものが必要だと言われるが、そういったものが無いと、人が人を殺す事に耐えられないという話なのだ。
子育てだって同じで、自分の血を引く子供だから、能力に関係なく愛しているから、そういった綺麗な言葉で自分を奮い立たせることで、やりがいのある子育てに耐えていくのだ。
たまには息抜きして、そうやって並々ならぬ苦労を受け入れるのだ。
まぁ、俺自身が実際に子育てをやってみて、愛情だけで何とかなるものではないよな、とか、母親が育児ノイローゼになるのも当然だな、とか、そんな感想を抱いている。
この苦労は外から見えるものでもないし、一度経験した人だからと軽々しく理解者ぶってほしくないほどに大変だ。
具体的には、夜中の起床とかだけど。
「夏鈴はよく耐えられるよな」
「ふhっ。男親と母親では、覚悟が違うのですよ。
自分のお腹を痛めて産んだ子供ですから。だんなさまは、もっと鷹揚に構えていても構いません。
愛しているからこそ、この苦労も愛おしいんです」
なお、夏鈴は大変な子育てを、どこか楽しんでいる雰囲気ですらある。
俺は父親で、親子の情が母親よりは薄いというか、我が子に対する実感が、夏鈴のそれに届かないようだ。
まぁ、ゲームとかでも単純作業を苦にしない人とか居たけど。
これもそういう事なのかな?
そして、それに共感できない俺の愛情は足りていないのかもしれないなぁ。