27-17 清音と美星⑦
「美星ちゃん、ばいばーい」
「あー、また今度なー」
休日は、いつまでも続かない。
子供たちの遊べる時間は短く、夕飯の時間が近づけば、親が迎えに来る。
美星を同世代の子供と一緒に扱って、唯一困るのが「親無し」という点だ。
こればかりはどうしようもなく、家に帰る子供たちを、美星は羨ましそうに見ている。
他の子供には親がいるのに、そう考えているだろう事は想像に難くない。
かと言って同世代との交流を無くすのは悪手だと思う。
大人に囲まれて一人でいるより、子供の輪にいた方が、良い方向に心が成長すると思うから。
俺たちは大垣から村まで移動するのだが、大狼を町中に呼びつけるわけにもいかないので、町の外れまで歩いて移動することになる。
その帰り道。美星と手を繋いて歩きながら、俺は考えていた案を口にする。
「美星。お前には「母さん」がいても、「父さん」が居ないよな。もし、お前が良ければ、だが。俺の養子にならないか?
いや、俺じゃなくても良いんだけどな。“子供が親を選ぶ”って選択肢も、世の中にはあるんだぞ」
美星に父親がいないという部分に漬け込み、養子になるという選択肢を提示してみた。
普通の子供には、親を選ぶ権利など無い。
だけど美星は、血の繋がりがない親で良ければ、選ぶことも出来る。
それが「親のいない子供」の権利の一つなのだ。
もちろん親の側に断る権利があるのも確かだが、「選べる」という事実は、美星の心を助けてくれるのではないだろうか。
美星の周り、職場では大人が大勢いる。
その中の誰かに頼むという手段もとれる。
俺は美星に選択肢がたくさんあることを教えて、視野を広げてほしいと願っている。
今は見えていないだけで、大切なものや綺麗なものは身近な所に在るものだ。
それに気が付けるぐらい、高くて広い視野をもってほしい。
いきなりは無理でも、少しずつ、世界の広さを知ってほしい。
美星は何も言わなかった。
繋いだ手に力が入ったけど、こちらを見ることもなく、俯いてしまう。
普段ならそのままにしておくのだが、養子にならないかと言った手前、俺の側から踏み込んでみることにする。
俺は立ち止まると、美星を持ち上げ、肩車をした。
「何? え? ちょっと、いきなり、何をするんだ!?」
「肩車だよ。父親なら、子供に肩車ぐらいするもんだからな」
「まだ、養子になるなんて、言ってない!」
「お試し体験だ。知らないなら、選びようもないだろう?」
帰るまでの少しの間。
美星はずいぶん騒がしくしていたが、俺の肩から降りようとはしなかった。
落ちないようにしていたのか、それとも――