27-16 清音と美星⑥
清音はそれでいいとして、問題は美星だ。
こっちはなにも解決しておらず、まだ「母さんに会いたい」と言っている。
それは叶えられないから、それ以外でフォローをしている。
「美星ちゃん、よう来たね」
「おばちゃん、おはよー!」
「おはようさん。お菓子、食べるかい?」
「いただきます!」
美星だが、休みには神戸町で甘やかしてくれる大人に預けている。俺は厳しい方なので、甘えたい盛りの子供の相手はしない方がマシだったりする。
それに、同世代の子供のいないゴブニュート村よりも、同じぐらいの子供がいる町の方が楽しいだろうと考えての事だ。
ついでに常識とか、集団行動を覚えることも出来る。人の良識や常識を学ぶなら、大勢の中に放り込むのが一番だ。
本当に母親か分からない、なんちゃって母親の清音よりも、実際に子育てを経験したおばちゃんらの方が余程母親っぽい。
報酬を支払って頼むべきなんだろうけど、俺はこんなことを言われているので、なにも渡していない。
「お金を貰ってしまうとね、それを知った美星ちゃんは悲しむよ。大事にしてもらったのが、お金のためだった、ってね。
だから、お金は要らないの。こんな当たり前の事で、お金を貰ったら、バチが当たるのよ」
安易に、金で解決するべきではないと叱られてしまったのだ。
もしも悪いと思うなら、町のために働いてくれればいいと、そう言われている。そうやって、町のみんなで子供を育てるのだと。
小さいコミュニティでは、「誰かの子供」などおらず、「町の、村の子供」といった認識をされる。
家ではなく、地域で子供を育てるのだ。
それが神戸町のルールだった。
子供の方も、異分子でしかないはずの美星を受け入れているため、特に問題はない。
「美星、今日こそお前に勝つ!」
「返り討ちだっ!」
空き地で、同じぐらいの年の男の子と、駆けっこの勝負している美星を見付けた。
状況から、美星の方が足が早いようだと分かる。小学校高学年だと、女の子の方がまだ強いからね。しょうがない。
「勝った!」
「ちくしょー! また負けた!」
ああしていると、美星も普通の女の子に見える。
たとえ中身が、殺し合いを何度もしたような子供でもね。
そのまま普通の女の子になってくれればいいな。