27-15 清音と美星⑤
あのあと、清音は恋人候補だった男と付き合いだしたようだ。
柾木というその男は、まだ20歳と清音と年齢の近い普通の青年である。
役職は研究員ではなく、助手になる。助手ではあるが、知識量は標準以上で、期待の若手新人だという。
俺の行動が影響したとかそういったものではなく、その前の、正義マンによる清音の過去の暴露に背中を押された形になる。
清音は周囲との会話をちゃんと成立させることができるけどパーソナルスペースの管理がかなり厳重で、友人までは簡単になれるけど、恋人レベルを目指して近付くとすぐに距離を取るのだという。すでに、多くの若者が撃沈したらしい。
ここまでは別に珍しい話でもなんでもないかな? 恋人を安易に求めない人って、どこにでも居るんだよな。
だけどその理由が家庭環境、過去の話で、それを知られたくなかったからだった、らしい。
虐待されていたのを知られる事で、周囲の態度が一変するんじゃないかと、怯えていたのだ。
……悲しいけど、そういうのを理由に、人を排斥する馬鹿っているよね。
アホがそういう話を聞くと、嬉々として被害者をイジメるんだ。
もっとも、そんな奴は理由が無くとも人を排斥しようとするだろうが。誰を排斥するかはどうでもよく、たまたま誰かをイジメる理由があればそこに食いつく刹那的な快楽主義者で、
「イジメられる理由となりかねない、過去の話を周囲に広められたくない」という清音の考えは、分かるよ。
で、そういった過去を知られても周囲は何も変わらないし、むしろ清音は以前より周りの人から優しくしてもらえるようになった。
世の中にはアホもいるけどさ、良い人だって居るんだよね。
出会いに恵まれれば、辛い過去を受け止めてくれる人を見付けられるだろう。
それに、俺という後ろ盾もあるので、イジメをするような奴だって清音を標的にすることは難しい。
イジメをするアホは、保身の上手い小賢しいのが多いからね。わざわざ地雷を踏み抜きにはいかないだろう。
周囲の反応に、ようやく人心地付いた清音。
清音には愛の言葉を受け入れる余裕ができたようで、柾木と付き合い出したという報告を受けた。
これで一つ前進と、俺の頬が弛む。
「旦那様は、清音や美星をどのように思っているのですか? 私の目には、やや、入れ込みすぎているように見えますが」
そんなことを考えていると、夏鈴が不思議そうな顔をした。
恋人を作ったことに喜んでいるので浮気の気配はないが、それでも俺と清音の距離感に思うところがあったらしい。
なんとも言えない微妙な顔で、そんなことを質問した。
「娘……と言うには歳が近いか。従妹か、それに準ずる身内だろうね。同じ能力を持つ、数少ない仲間だから」
「家族のようなものですか?」
「そうだね。それが近いんじゃないかな?」
自分の事だが、こういった感情は言語化しにくい。なので、どこか曖昧な笑顔で夏鈴に答えた。
夏鈴は浮気の可能性がないことと、あの二人の重要性を思いだし、質問をそこで止めた。
俺が夏鈴の頭を乱暴に撫でれば、夏鈴は俺に身を寄せる。
互いに無言だが、特に気にはならない。
血の繋がりとか、そんなものとは関係ない。俺と夏鈴は心の繋がりを感じられる“家族”だからね。