27-13 清音と美星③
俺は、清音と美星の件に対し、静観の構えをとっている。
この方針は、夏鈴を始めとする俺の意を酌んだ連中の共通見解で、「他人が口を挟むべきではない、時間が解決する」から、他をサポートしようというものだ。
他が上手くいけば、二人の関係も改善するだろう。
ただ、開発室って、他の所属の人も居るんだよね。
常時ではないけど、他所から引っ張ってきた研究者もいるんだ。
優秀な研究者なら、多少の暴走は仕方がない。優秀な研究者には変なのが多いと聞くし。
それに、研究で暴走されるぐらいは構わないと思っていた。結果に繋がるなら、それもアリだろうと。
しかし、“暴走”は研究に限った話ではなく、私生活でも人の話を聞かずに突っ走るのも、いる。
絶対に自分が正しいと信じ、人の忠告に耳を傾けない奴が。
そういった馬鹿は、さすがに要らないんだけどな。
「家族が相手とはいえ、確かに傷付けてしまう事もあるだろう。
だけど! 家族じゃないか!
もしも相手が変わらなければ、変わっていなければ、まだ無理だと思うのも仕方がない。
けど、妹さんは、反省しているんだろう? 今度は普通に、仲良くしたいと思っているんだろう?
だったら、年長者として、受け入れてあげないと。家族がいがみ合うなんて、間違ってる! 家族とは、支え合って生きていくものなんだ!!」
爆弾開発の研究室。
その中で、なぜか御高説を垂れ流す、初老の男性。
誰も聞いていない、その御高説を主張し終えた彼は、三河経由で派遣された研究者だった。
火薬関連の研究という事で、糞尿から硝石を作り、黒色火薬の研究を成功させた事でここに来た、一応は実績のある人だった。
人の話を聞かない暴走癖があるものの、基本的に善人だから大丈夫だろうと言われていた人である。
それが、見事にやらかした。
彼を送り出した三河の担当者は、この話を聞いたら頭を抱えるだろうね。
人事担当とは何度か顔を合わせているし、こちらの事情も少しは共有していたんだけど……。
「清音君。君の不遇も分からなくもない。
だが! 手を取り合う事で、人はより大きな幸福を掴む事が出来るのだ。
さぁ、妹さんのところに行くがいい。そして、仲直りをするのだ」
お節介が過ぎる、正義マン。
自称「正しい事をしている人」は、満面の笑顔で清音に正しさを押し付ける。
運良く、それとも運悪く?
正義マンの御高説の最中に顔を出した俺は、清音が何か言う前に、口を開き介入する事にした。
「そうやって見当外れな事を言う様なら、帰ってもらえないかな? 居ない方がマシだ」
俺は面倒や厄介を持ち込むなよと、声を大にして言いたい。正解の無い問いかけに、正しさなんてあるものか。
けど、今は大声を出すと清音に悪影響を及ぼすので、坦々と、声に感情を乗せずに正義マンを糾弾してみた。
話し合いは期待できない以前に、清音の保護を考え、すぐにここから連れ出すけどね。