27-12 清音と美星②
この話の面倒な点は、清音が年上で、美星がまだ子供だという点だ。
同じ年の男だったら、殴り合わせる。それが一番早いから。
しかし清音の方が年上なので、もしも殴り合いになると、小学生女児を女子高生が殴る蹴るという、酷い絵面になる。
加害者と被害者という点を考慮しなければ、検討するに値しない。
この事は、清音も分かっている。
だから清音は「会いたくない」なのだ。
自分の中にある不満をぶつけるには、美星は幼い。「怒りも憎しみも、子供に向けるべきではない」と、彼女の中の善性が復讐したいと願う心に制止をかけているのだ。
いっそのこと、もっと暴力的であれば、横っ面を引っ叩いて終わりにする事もできただろう。
それが出来ない程度に、清音は優しい娘さんだった。
長い地獄の中で怒りや憎しみを覚えないほどの聖女様ではないが、血の通った人としてはよくできた、いい子なんだけどね。
……清音がいま働いている職場は、『爆弾開発研究所』なんだよね。
なお、そこは俺がいくつか挙げた『平和的な』候補を無視して選ばれた、彼女自薦の職場である。闇は深い。
現状のままでは、清音が美星に会えるかどうかと聞けるようになるのは、恋人ができてから。
それも、恋人と上手くいくだろうと確信が持ている程度に様子を観察してからだ。
恋愛とは不思議なもので、付き合いだしたらいきなり関係が悪化するカップルというのは、少なくない。
理想と現実の差を感じ取ってしまう人や、付き合うまでのハードルを下げる分別れるまでのハードルも下げている人というのが一定数居るからだ。
恋人関係を一生モノと思って覚悟を決める奴の方が少数派なのである。
好き合っていないと付き合わない。好きでもないのに付き合うのは不純だ。などとは言わない人がほとんど。
普通のカップルは「ちょっといいかも」程度で付き合いだす。
そして「やっぱり合わなかった」で別れる。
結婚相手として見るかどうかは、付き合ってから考えるのだ。
長期的な「好き」は付き合ってから育む方が建設的である。
好きで付き合ったカップルが勢いで結婚すると、だいたいロクな事にならない。
若い二人が勢いで子供を作って結婚などしようものなら、かなりの確率で喧嘩別れするのを、こちらの世界でさんざん見てきたよ。
神戸町でも、そういった話が多くあるんだよ。恐ろしい事に。
清音の相手は真面目な好青年なのだが、だからと言って女性と付き合うのに真面目だからというのは、好材料ではない。
求められるのは浮気をしない真面目さよりも、相手を受け入れる「寛容」なのだと思う。
男の側に、長期にわたり虐待を受けてきた清音を受け入れる度量があるかどうかは、まだ分からなかった。