27-8 モヤモヤする話
「人間じゃないと言われたところで、なんにも変わらないんだけどな」
「旦那様は旦那様ですから。それが変わらない限り、人間かどうかなど、些細な問題ですよ」
ジンの診察でとんでもない事実が発覚したのだが、俺の周囲は何も変わらなかった。
俺がすでに人間ではないと伝えた相手は、カードモンスターの仲間達だけだからだ。
堀井組や大垣の署長さん、神戸町の身内と言える人たちには、伝えていない。
伝える事でどんな変化があるのかが怖い、ではない。
人間、知らない方が幸せって事もあるからだ。
聞いた側としても、俺が人間じゃないならなんなんだと、そう思う以上の何かがあるわけではない。
せめて、俺自身が何者なのかを把握してからでも遅くは無いと思う訳だよ。
ジンの所から戻った俺は、徐々に気力を取り戻していった。
言われていたように、俺の変化は終わったらしく、体と心のバランスが戻ったのだ。
やる気に満ち溢れている、と言ったら言い過ぎだが、以前と同じように仕事に励んでいる。
夏鈴も忙しくしながら咲耶の面倒を見ていて、休む暇も無いといった有様だ。
「夏鈴のやる気は分かるけど。母乳をあげる以外なら、他の人に任せるべきだと思うよ。
母親だからって全部やろうとするのは違うだろ」
「旦那様。私は、やりたくてやっているのですよ。無理はしていますが、嫌々やっているわけではありません」
「はぁ。気力で体を動かしているようでは、話にならない。
とりあえず『スリープ』」
そして働き過ぎなので、無理やり休ませないといけない状態である。
子育てを自分でやりたいと思うのは良いが、体を壊さない程度に抑えてもらわないと困る。
出産してからしばらくの間は良かったが、出雲への遠征で顔を見れなかった期間があったせいか、どうにも張り切り過ぎている。
再召喚すれば健康な体を取り戻せるとは言っても、そんな馬鹿馬鹿しい事の為に召喚をしたくない。
仕方が無いので、俺は魔法で夏鈴を無理矢理眠らせるのだった。
『ヒール』 + 『睡眠薬』 → 『スリープ』
俺が人間を止めた事は、今のところ、黙っている。
しかし、巫女と交戦した事、そして「知った相手の能力については、ちゃんと情報共有しておく。
「なんと。敵は複数の体に一つの魂を持った化け物だったのですか。
確かに、そう言われれば納得できることもありますね」
「殺したと思って油断したら、そこを襲われる。魔法を使われなくても無敵の体術があれば、とてつもない脅威ですね。秘密の維持がこれほど難しい相手だったとは」
「殺して口封じ。それが出来ないのは恐ろしいですな」
大蛇の巫女、幽暗の大蛇に悩まされてきた面々は、俺の提供した情報を疑いつつも、それが本当だった時を想定して青い顔をしていた。
俺の言葉を疑っているというより、信じたくないというのが本音だろう。
これまでの実績がある。少なくとも、全く信用しないという態度は取られていない。
「それで、何か対策は?」
問題はこう聞かれた事で、俺自身、まだ対策は考え付かない。
相手の自殺を防ぎ、監禁して、7人をまとめて殺すという事しか思いつかない。
その難易度については、お察しである。
捕まえるのが難しいというだけでなく、捕まえた巫女を殺されてもいけないし、自殺されてもいけないし、とにかく問題が多すぎるのだ。
何と言っても、敵の駒が巫女だけではないから、本気でどうにもならない。
つまり現状は、打つ手が無かったりする。
これで俺が巫女を殺したことで神様パワーに目覚め、巫女の復活を阻止できるなら楽なんだけど……。
そもそも、前回の戦いで巫女を殺し切っていれば一番いい結果なんだけど……。
俺の種族もそうだけど、巫女を殺し切ったかどうかも、確かめる手段が無い話なのでお手上げである。
たぶんも何も、殺し切れたかどうかを証明する手段が無いのって、怖いよね。
完全に殺し切った確証が得られないと、ずっと怯えて過ごさなきゃいけないじゃないか。
何らかの証明手段を得られるといいんだけど。
それが出来れば苦労はしない、そういう話だ。