2-24 脱出強行
意外と俺に人を回しているようで、昼になっても監視の数は減っていない。
ここから先、時間の経過が俺の味方をするかは分からないので、さっさと動くことにする。
カードからモンスターを召喚するのに、視認の必要は無い。
「≪サモン≫『草原狼』
そうだね、町の外を目指すように走り回って。攻撃や食事は、町の外にたどり着くまで禁止だよ」
手持ちの草原狼を数体、召喚して場を引っ掻き回す。
案の定、突然現れた草原狼たちに監視の連中は引っ掻き回される。数人はそのまま残ったが、3人ほど草原狼への対処に動き出した。
残った連中も心中穏やかでは無い様子で、周囲をしきりに確認している。
……思ったほどの効果はない? 追加は必要か?
いや、監視に回されている人員が多すぎるだけか。追加はまた後で。足止めに使うようにしよう。
俺は攪乱はここまでと思考を切り替え、『カード化』の能力を使い、壁の一部を消し去った。
壁を壊し外に出たつもりだったが、まだ拘置所の敷地内である。
急いでここから脱出しよう。
「壁が壊された? 奴が脱走するぞ!!」
「≪サモン≫『草原大狼』
街の外まで頼む!」
騒ぎを起こしてみたが監視の目は無くならない。
だからと言ってそのまま走って逃げる事はできないだろう。俺は人前である事を気にせず、乗り物として草原大狼を召喚した。
そして背中に乗って、移動を命ずる。
俺が囚われていたのは、町の外れで北の方だ。外まではあまり距離が無いので、普通に考えれば逃げ切るのは簡単だ。
囚人がこうやって脱走したときに備えて人気の多い所を避けて拘置所を作っていたのが俺にとって有利に働いた形だが。
草原大狼はそれとは逆方向、南に進路を定めて駆け出した。
さすがに、いきなり北に向かえば分厚い防衛網が敷かれていると思うからね。
ちょっとぐらいは迂回しようと思う。
「拘置所は、あくまで一時的な容疑者収容施設なんだよね!」
これが刑務所であればもっと警備が厳重なんだろうけど、拘置所程度じゃあそこまで物々しい造りになっていない。
逃亡防止って事で周囲は柵に覆われているけど、草原大狼のジャンプ力であれば飛び越えることも可能。大した助走距離も無いのに草原大狼は柵を越え、道路へと飛び出す。
拘置所に入れられるときは窓の無い馬車だったので、どちらに向かっているか分かっても、外の様子は分からなかった。
なので、まず辺りを見渡してみる。
拘置所の近くに店などはなく、そこそこ見晴らしのいい田園風景と、ポツポツと休憩所や農作業で使う物を片付けておく倉庫などが見える。
森が遠く、逃げるのであれば、しばらく隠れることは難しいかな。
とにかく速度優先で良さそうだ。
なお、最初に召喚した草原狼たちはまだ拘置所の敷地を出られないでいる。
あの子たちは俺が背中にいなくても柵を乗り越えられるほどのジャンプ力が無く、ついでに脱走を防止する役目を任じられた連中と追いかけっこをしているみたいだ。
体のいい足止めだね。働き者だ、あとで労ってあげないと。
状況的に残った草原狼たちは脱出できないだろう。
だが、そのおかげでしばらく追手は来ないと予測できる。
田んぼを荒らさないよう、草原大狼に舗装されていない道路を走らせる。
俺は思った以上に簡単に、ひとまず自由を得るのだった。




