26-25 切り札⑤
焦りから来る、判断ミスだ。
正直なところ、その可能性も想定したことがあったのに、完全に忘れていた。
クローンの量産型妹みたいに、大蛇の巫女が2万人とか言われたら、本当に死ぬな。
真面目な話、敵が記憶を共有する群体であった場合の対処方法は「無い」。
出来る事は目の前にいるのを殺すだけなのだ。
俺がこの手の能力者で、かつ能力の制限が緩ければ、俺は絶対に戦場に立たない一人を作り、死なないようにする。
そうすれば、全滅だけは避けられるからだ。
殺されることは痛手でも、全滅しなければ立て直せるんじゃないかな。
こういった敵を相手にするなら、ワクチン・オークの前身であるディズ・オークを使ったウィルスによる敵の殲滅も考えたけど、物理的に接触しなければ意味が無いし、そもそも「どうやって巫女だけ殺すウィルスを確保するのか」という話になったので止めてしまった。
ウィルスって、変異するからね。途中で巫女の都合の良い様に変異させられるかもしれないと思うと、怖くて手を出せなかった分野である。
オーク相手と違って、気軽に試せないのだ。
じゃあ、こんな敵だった場合、どうするのか?
俺は、この場は諦める、と考えている。
打つ手が無いのだから、逃げればいい。とりあえず目の前の敵を排除し、安全を少しでも確保出来たら全力で逃走。計画と言えないような計画だが、それぐらいしかできない。
昔からよく言われる「ジタバタするしかないなら、ジタバタしましょう」の精神だ。
俺はまずどうやって巫女軍団となったこいつらを排除するか、考える。
爆弾は有効なので、落とし穴で俺が地面に潜り、地上で一斉起爆をすれば、近くにいる敵は一掃できるだろう。
春華の再召喚はしばらくできないので、俺の守りが親衛隊だけになるが、親衛隊だって弱くないので何とかなるだろう。
春華をこの短時間でまた殺す事になるが、そこは諦めるしかないな。
俺が殺されるのが最悪の展開だ。それを回避するためである。
こんなところで殺されてたまるか。生きて、必ずやり返してやる。
爆弾のストックは元から少ないが、出し惜しみはしない。
しかし、そうやって覚悟を決めようとした俺の耳に、頼もしい足音が聞こえた。
地面を揺らす、巨躯の仲間と言えば。
「ブモォォォォッ!!!!」
「旦那様!!」
タイラントボア。そして夏鈴。
黄泉比良坂攻略に回した、俺の切り札がこちらに来た。
「異世界との門は閉じました! 私たちの“勝ち”です」
そして、向こうが上手くいったと高らかに宣言した。