26-21 切り札①
ウダウダと、現状維持をしていた自分に見切りをつけた。
夏鈴が応援を寄こしてくれれば何とかなる、そう思っていたが、その甘えを捨てて現実を見よう。
現在、味方は大きく戦力を減らしている。
大狼3頭が殺され、春華は左腕を折られ地面に横たわり、親衛隊ではまともに向き合う事すらできないため距離をとってこちらを見ている。
個人的な武力では、もうどうにもならないと考えていい。
そうなると、打てる手は本当に少ない。
保険として用意しておいたが、出来ればやりたくなかった手段ぐらいしか残っていない。
「≪顕現≫『千年氷牢』」
俺は使いたくなかったアイテムを使い、巫女を閉じ込めた。
『千年氷牢』は、大きめの『千年氷河』で、中をくり抜き、空洞化したものだ。
人間一人ぐらいなら、余裕で閉じ込められる。
問題は足元で、カードの使用制限の一つ、「周囲にある物を押しのけるように召喚・顕現はできない」により、地面をそのままにしている事だ。
氷牢は1辺を5mと大きめに作っているが、ある程度以上の実力者なら『千年氷牢』の重量をものともせず吹き飛ばせる。いや、氷は分厚いが、氷壁を破壊する事もできるだろうね。
『落とし穴』という地形カードを併用して足元も氷にすることを考えたが、そういう事をすると中が空洞でも中身が詰まっているのと同じ扱いを受けるので、これが限界である。
氷牢の壁は、透明で、中はちゃんと見える。
巫女はこちらに対し余裕を見せていたので、あっさりと氷牢に閉じ込めることができたのが確認された。
ここからが本番である。
「≪解放≫『鉄塊』。≪解放≫『爆弾』。≪解放≫『リトルファイア』」
続けて、相手が出てくる前にさっさと追撃をする。
氷牢の上に鉄の塊、内側に爆弾を設置する。そして、『リトルファイア』で爆弾に火を点けて起爆した。
『千年氷河』ベースの氷は、普通の氷よりも固い。
鉄塊の重みで氷牢は吹き飛ばず、爆発の威力をそのまま閉じ込め、内部を蹂躙する。
さすがの巫女も、これは回避不可能。肉片を撒き散らし、ズタズタになった。
「≪解放≫『水樽』。≪解放≫『爆弾』。≪解放≫『リトルファイア』」
同じことを、もう一度やる。
本当にダメージが入ったか分からないし、念には念を入れた方がいいからだ。
ただし、今度は内部に水樽を設置したので、爆発のついでに飛び散った肉片を氷漬けにしている。
よくある不死者封印ネタだが、バラバラにしてから氷漬けにすることで再生を阻害するというやつである。
巫女にそんな能力があるかどうかは知らないけど、やらずに放置するのは論外だ。あり得ない。
巫女をどうにかしたつもりだけど、これでもまだ安心できない。
俺は氷牢に潰され死んだ春華を召喚し直して、ようやく一息吐く。
「すまなかったな」
「いいえ。あの場では必要な判断でした。
私の方こそ、御身を守りきれず、申し訳ありませんでした」
この方法をすぐにやらなかった理由は、仲間が近くにいたからだ。
仲間が邪魔で、使うに使えなかったのである。
仲間、春華ごと氷牢に閉じ込めることも考えたけど、どうにも決断ができなかった。甘い考えと分かっていても、仲間ごと敵を倒すのは、正直もうやりたくない。生き返るとはいえ、後味が悪い。
それに、だ。
「夏鈴は大丈夫かな?」
「今は信じるだけですよ」
巫女との会話で、夏鈴が心配になった。
俺は当初の予定に従い、このまま撤退するけど。
……夏鈴が無事に戻ってきますように。