26-20 迎撃戦④
「あらあら。粘るわね」
春華が得意なのは、攻撃よりも防御である。
だが、その得意な防御に徹しているにもかかわらず、ギリギリの綱渡りを強いられていた。
巫女の猛攻を捌く春華は、苦悶の表情。
攻める巫女は、まだ余裕があると言わんばかりの表情だ。
実際、巫女はこちらを挑発するように声をかけているが、こちらにはそれに返す言葉が無い。
こっちの戦闘要員は俺をカウントしなくとも6人と6頭いる。
春華が巫女の正面を押さえているなら、残りの仲間が巫女の背後から攻撃を仕掛ければ、それだけで簡単に勝てるはずなのだが。
「うふふ。そうはいきませんよ」
人間サイズの親衛隊の攻撃は、まるで巫女がそこにいないかの如く躱され、なぜかそのまま親衛隊と巫女の位置が入れ替わる。
親衛隊の攻撃は巫女ではなく春華を狙ったものにすり替えられ、同士討ちが起こりそうになる。
かと言ってオーディンら大狼が攻撃しても、懐に潜り込まれ、そのまま喉を貫かれて終わる。
すでに大狼は3頭が殺され、オーディンもすでにカードに戻っていた、
大きさに見合ったパワーとスピードを誇る大狼だが、巫女はそれ以上だったのだ。控えめに言っても化け物である。
「手応えが無いのよ? もう少し必死になるべきだわ」
攻撃しても当てるビジョンが思い浮かばないと言って、春華一人に押さえを任せて攻めあぐねると、春華にダメージが蓄積する。
巫女の攻撃能力が春華の防御能力を上回っているので、1対1ではどうにもならないのだ。
現状のままでいれば、早々に春華が殺され、詰んでしまう。
ならば、ここは俺が手を出す。
俺は仲間を召喚し、援護することにした。
「≪召喚≫『ゴブニュート・ウィザード』『ゴブニュート・プリースト』」
今は近距離戦闘よりも、魔法戦闘がベストだ。
春華に正面を任せつつ、遠距離攻撃で攻撃魔法を叩き込めば戦況はずっとマシになるはず。
そういう訳で、ウィザードを召喚した。
それと、怪我と疲労によるパフォーマンス低下を避けるため、プリーストに補佐させる。
これで少しは状況が好転するはず、そう思っていたが。
「あら? じゃあ、少し数を削りましょう」
押されてはいるが、何とか抑え込んでいる。
そう思っていた春華の腕が、いきなり折られた。
盾を殴られ、その一撃の重さで腕の骨が折れたのだ。剣を持つ手は無事だが、動きから精彩が欠けた。
巫女の行動がフリーになる。
そのまま召喚したばかりの2人が巫女に襲われ、そのまま何もできずに殺された。
手を抜かれていただけなのだ。本気を出されては、まともに戦闘が成立しない。
それが証明された瞬間だった。
「さあ、続きを始めましょうか。
もう少しだけ、頑張ってね?」
猫がネズミをいたぶって殺すように、蛇が生きたまま獲物を飲み込むように、じわじわと殺される。
逃げようとしても、逃げ切ることなどできない。
さすがに、死を覚悟した。
いや。無傷では済まない、甘い事は言ってられないと、俺は生き残るための覚悟が求められている事を、ようやく理解するのだった。