26-19 迎撃戦③
「会話、ねぇ? そっちの名前や目的とか、教えてもらえるのかな?」
吉と出るか、凶と出るか。
確実にこちらが有利になるという保証はないけど、夏鈴を信じて時間稼ぎに徹するとしよう。
俺は嘘か本当か確かめる方法も無い、だけど相手の口から聞くしかない話題を振ってみた。
「名前と目的? 名前は無いわ。巫女って、そういうものだもの。それと、人に名前を聞くなら、自分から名乗った方が良いわ。失礼だもの。
私たちの目的はこちらとあちらを繋げる事よ。あの門は、私たちには開くことができなかったの。本当に感謝しているわ。
でも、閉じて欲しくないから、こうやってあなたに死んでもらうのよ。
上手くいって良かったわ。してくれるかもしれない、引っ掛かってくれるかもしれない人は、ある程度知識や力が無いと駄目だもの。あまりにもお馬鹿さんだと、ここまで辿り着いてくれないのよ」
「もう少し、上手く立ち回れば、もっと早くに目的を達成できた気もするけどね」
「それでは面白くないもの。ルールを決めて、その中で立ち回るから面白いのよ」
……状況を振り返ってみれば、巫女は嘘を言っていないと思う。
行動原意が愉快犯に近いが、そう考えると腑に落ちる事が多い。
もしくは、語った内容にまだ欠けている情報がある。そんなところか。
一応、確認しておこう。
「へぇ。じゃあ、金で人を雇うとか、そういったのじゃダメだったわけか」
「その通りよ。そもそも、普通の人に門は開けないわよ。貴方たちのような人じゃないといけないの。
貴方は、自分が普通の人間じゃない事を知っているわよね?」
ちょっとした確認のつもりだった。
近くで人を雇うとか、伊勢の連中に門を開けさせればいいんじゃないかと。
誰でも思いつく、一番簡単な目的達成の方法だ。
すると巫女は、蛇を思わせる笑みを浮かべた。
化け物の笑みだ。
思わず背筋に冷たいものを入れられたかのような怖気に襲われた。
「うふふ。それにしても健気よねぇ。時間稼ぎに、必死になって。でも、本当に助けは来るのかしら?
勝てる勝負も勝てなくなるわよ」
「仲間を信じると決めたのだから、信じるだけだよ。あと、アンタがここに来た時点で勝算あり、って事だろ」
「せいかぁい。
あっちは苦戦しているようね。でも、ここであなたが死ねば、それも終わりなのよ。
それと、私が一人でここに来た意味、理解できるわよねぇ?」
「一人で十分、か」
「ふふっ。勘の良い子は好きよ。
さあ、遊びましょう」
そう言うと、巫女が木々をすり抜けるような、踊るような動きでこちらに肉薄してきた。
春華がそれを阻み、戦いが始まる。
相手の言葉に、嘘が混じったのが分かった。
たぶん、夏鈴達だけだと、攻略戦は失敗するだろう。
相手の口ぶりから、こちらに存在しない希望を抱かせようとしているのが分かった。
巫女が俺の所に来たのは、ただのお遊びの類いのようだ。
心から、俺を弄ぼうとしている。
それでも、戦って生き残るしかないんだ。