26-18 迎撃戦②
こちらから迎え撃つというのは、少ない選択肢を狭めないための手段だ。
相手が追ってくるなら、どこで戦うかの選択権を得られるからだ。
もしもそのまま逃げるとして、こちらに都合のいいタイミングで戦いになるのか? こちらのコンディションはどうか?
それらの状況がコントロールできないのは痛い。
あくまで、こちらが主導権を握るための選択なのだ。
この辺りで戦うことになった場合、どこで迎え撃つかは事前に決めてある。
彼我の速度差を考慮して、想定していた場所で待機する。
移動で減った体力を僅かばかりだが回復させていると、黒い巫女服を着た、長い黒髪の若い女が一人で姿を見せた。
巫女という言葉から想像されるような、細身の美少女である。現実はお年を召した巫女さんの方が多いのだが。
「フッ!」
その巫女に、親衛隊の一人が問答無用で切りかかる。
追いかけてきたのは大蛇の巫女、本人。
ならば敵でしかなく、会話は無意味だ。相手の語る言葉に意味は無く、刃を交える段階である。
「あらあら。うふふ」
「チィッ!」
親衛隊の者らは、終ほどではないが、全員が強者だ。初期メンバーは伊達ではない。
だが、巫女は切りかかった剣の刃を素手でいなすと、その勢いをどう変えたのか、そのまま相手を投げ飛ばした。
表情に笑みを湛え、余裕綽々である。
これは、不味い。
思った以上に、相手が強い。
春華をチラリと見るが、その表情に余裕は無い。今の攻防で実力差が見えてしまったようだ。
「見た目と違って老獪な技だな。はぁ、面倒くさい」
「……女性を相手に老獪とは、言葉選びもできませんの?」
せめてもの反抗に、気圧されぬよう、軽口を吐く。
巫女が何者かは知らないが、年齢はタブーだったらしい。奇襲を受けても微笑んでいたが、今は口の端を歪ませている。
普段は敬われているから、こういった発言には慣れていないのかもしれないね。思わず笑ってしまう。
「言葉も礼儀も、もう不要だと思うけど?
こっちにちょっかいをかけて、人死を出して。さあ話し合いをしましょう、なんて段階は過ぎているだろう?」
「そうでもありませんよ? 戦争は相手を皆殺しにすることではなく、相手の首に刃を突きつけ、言うことを聞かせるものですもの。
それまでの行い次第で終わりかたも変わるのよ。紳士的であるべきだわ」
初撃は失敗したが、言葉のやり取りではまだ負けていない。
夏鈴が送ってくるだろう応援を待つため、少し喋って時間を稼ぐか?
相手が簡単に乗ってきたなら、別の警戒も必要だ。こっちよりも早く、敵の増援が来るかもしれないよな。
上手く行ってくれるといいんだけどな。