26-8 戦団壊滅の報
調査戦団、半壊の報告が届いた。
「順当ですね」
「予測の範囲内です」
周囲からは「やはりこうなった」という感想が出ており、まるで俺が原因であるかのような扱いを受けていた。
フラグは立てたと思うが、それが実現するかは周囲の努力次第だと思う。これは不当な扱いだ。
「いえ。戦力不足が懸念されていたので、甘い見込みで人を動かしてしまった、その一言に尽きると思います」
「みんな、あの時不安そうでしたから。安全に事を運ぶのであれば、彼らは第一陣として足場固めに終始させ、本格的に動く為、第二陣を編成して送り込む事が重要だったと思います」
夏鈴と春華は交互に言葉を並べ、「俺に責任がある」と断じた。
……最高責任者なので、大きな責任は常に俺へとのしかかってくる。
それが責任者というものだった。
調査戦団のうち、戦闘担当であった軍はほぼ全滅。その他のメンバーにも少なくない被害が出てしまった。
生き残りは3割と、現地での行動はもう無理だという。
どうやって彼らが生き残ったのかというと、最初からこうなる可能性を考慮し、遠くから望遠鏡で見ていたからだ。
全員が一ヶ所に固まっていては有事の際に全滅するので、別行動の者や、遠くから坂を観察する者とに別れていたので、巻き込まれなかったのだ。
最悪に対する備えは常に行っていたので何とかなったが……こういった備えは、いい意味で無駄になってほしかったよ。
生き残りの者らの報告によると、黄泉比良坂の大岩を門に見立て、開くように動かすと、ここではないどこか異世界と繋がったらしい。
そして現れたのは、凄まじく強い人間が多数と、それを補佐するゴーレムの軍勢だった。
てっきり亡者の軍勢が現れると思っていたので、足止めに有効と言われるブドウとタケノコ、魔を祓うと言われる桃を持たせていたのだが、全く効果は無かったという。
まぁ、奥に居るのがヤマタノオロチならぬ幽暗の大蛇。そもそも伊邪那美ではないので、効果が無くても仕方が無いのだろうよ。
粗末にするつもりは無かったが、食べ物を無駄にしてしまったのは、痛恨のミスである。
なお、出てきた「凄まじく強い人間」は、こちらの近接系最高戦力である終とほぼ同格、というのが報告者の見立てである。
遠距離からの観測で正確さに欠けるし、相手が全力を出しておらず余力を残しているかもしれないと思うと、もしかしたら終よりも上かもしれない。
夏鈴は「最悪を想定します」と言って、敵の個人戦力を終よりも2割増しで戦術を考えると言っている。
人数は100に満たないという話だが、終の2割増しなら、軍を全部使っても厳しいんじゃないかと思う。
相手はそいつらだけでなく、200体以上のゴーレムもいたというのだから、話にならないんじゃないだろうか?
「遠距離でどこまで削ることができるか、それ次第です。砲撃戦に持ち込む、旦那様の切り札の完成を待つなど、取り得る手段はいくらでもありますよ。
ガトリングガンが量産できれば一番いいのですが……何とかなりませんか、旦那様?」
夏鈴は戦力差をひっくり返す事は不可能ではないと断言する。
直接戦う事になれば負けるのであれば、直接戦わなければいい。陣地を構築するなど、地形を味方につける事も可能。
相手の戦力の底は見えないが、無尽蔵という事は無いだろうから、持久戦を仕掛ける事も視野に入れて作戦を考えている。
「どこがどう不利なのかを自覚すれば、数倍の敵が相手であっても負けません。致命的な戦力差が無い限り、勝利条件を上手く設定すれば、勝てない戦いの方が少ないですよ。
今はまだ挽回できる範囲です。そのためのストラテジストですよ、旦那様」
今回の消耗は、軍系カードのリキャストタイム、3ヶ月という時間だ。
致命的な損耗はしていない。
「現地への補充要員を送り、態勢を整え直すよりも、一度引き上げてリセットすればいいでしょう。
現状では、まだ、黄泉比良坂の情報収集などは重要ではありません。異界の門の開き方、それが分かっただけで重畳というものですよ。
負けはしましたが、戦場の一つを落としただけで、私たちが敗北したわけではありませんから」
夏鈴はやる気を見せている。
3ヶ月後、夏の終わりにもう一度、戦いを挑むつもりで準備を進めることにしたようだ。