2-22 法の基本原則
「私は初犯、それも法に関する知識が無かったことも併せ、経過観察付の無罪を主張するわ」
「おい、俺はちゃんと教えたぞ。知識が無いというのは言い訳として不十分だろうが」
「そう? 貴方が信用に値しないのであれば、教えた知識が本当かどうかも分からず、知っているとは言い難いのよ。
貴方がちゃんと話をして、理解を得たうえで行動していればこんな面倒な事にはならなかったの。
分かる? 今この状況は、貴方の手抜きと、不見識と、すぐに暴力に頼る乱暴な在り方の結果なの。当然、発生した損害は貴方自身の責任なのよ」
「ふざけるな! 現行犯に対する拘束は法によって認められた権利だろうが!」
「そうやって話し合いの努力もせずに暴力で解決しようとすることが問題を起こしていると言っているのよ!
貴方は赤子が贋金に触れたら赤子を犯罪者とでも言うつもり? 法の定める責任は、知識と理解と共有があって初めて有効なのよ!」
もはや三度目になるコントに、この二人を一緒に使う、彼らの上司に文句を言いたくなった。
俺の呆れは横に置き、俺の処遇に関してもこの二人の意見はぶつかっている。
女性の側が言っているのは、いわゆる少年法の基本的な考え方である。未成熟な子供は法に対する知識があっても理解ができず、共有できているとは言い難い。よって罰を減ずるようにするというものだ。
いや、無罪というのだから精神鑑定の方が近いか? 責任能力が無い、という犯罪者を庇う弁護士のような内容だし。
男の方は、自分のやった事は現行犯逮捕だとするもので、特にコメントするところは無い。
ただ、この男の意見が通り俺を有罪とするなら、俺は武力でこの場をどうにかするだけであるが。
気になるのは、この二人は貴金属買取店の店主であり、金の鑑定人であり、法の専門家ではないという部分だろう。
犯罪者の罪を裁くのは被害者でも警官でもなく、普通は裁判官だ。ましてや貴金属買取店の店主が関わる内容ではないと思うが。
それとも、俺が知らないだけで、この国ではこれが一般的なのだろうか?
俺としては、コントの中でもしも有罪であれば強制労働三年という刑罰になることが知ることができただけで満足だ。
無論、そんな勝手な理屈に従う意思など全く無い。
自国の法は自国の人間にしか通用しないという、法律の基本原則を忘れている連中に何か言う気も起きない。
条約を結んでいない他国の人間を相手に法の押し付けをしている間抜けは男女どちらも同じだし、どうでもいい。
他国の人間を自国の法で裁くのは、国際ルール上違法なのである。
なおこの場合、国に所属していない俺は、野生動物と同じである。
法の支配も受け付けない代りに、法の庇護を得られないわけだ。法を持たないとはそういう事だ。
そして俺を縛る法は、基本方針・ハンムラビ法典の身分平等バージョンとなる。
やってくるならやり返すぞ、俺は。
しばらくグダグダとした言い合いをしていた二人だが、この場で議論をするのは止めたようだ。二人の間で結論が出てもと無駄だと思いだしたらしい。
話し合いを止めると、この場向けの簡単な結論を言い出した。
「ちゃんと無罪になるように話してくるわ。私を信用して待っていてね」
「ふん、結果は変わらん。精々大人しくしているんだな」
話は保留でこの場は終わりらしい。
俺は念のための確認をする。
「結論はいつ頃出るんだ?」
「遅くても、10日後よ」
「そっか、了解。
そのときになったら戻ってくるから、一回ここを出たいんだけど?」
「ごめんなさい。私の権限では、それは許可できないわ」
10日も待つ気などさらさら無い。
裁判も無いようだし、俺の出番はここで終わったとしても構わないか。
さっさと脱走し、家に帰ろう。




